第12話「兄と姉への相談」
文化祭まで、あと十日。
木曜日。
夜。
石川家。
将規は自室の机に向かっていた。
教科書は開いている。
しかし。
全く頭に入らない。
将規 「……」
真優。
美優。
文化祭。
答え。
考えれば考えるほど分からなくなる。
コンコン。
ドアが開く。
一将 「起きてるか」
将規 「兄貴」
一将 「珍しく暗い顔してるな」
将規 「いつもだろ」
一将 「いや、今日は特別」
図星だった。
一将は部屋へ入る。
ベッドに腰掛ける。
一将 「そろそろだな」
将規 「……」
一将 「文化祭」
将規 「ああ」
静かな時間。
一将 「まだ決まらないか」
将規 「決まらない」
即答だった。
一将も驚かない。
予想していた。
将規 「真優も好きだ」
一将 「うん」
将規 「美優も好きだ」
一将 「うん」
将規 「でも選ばなきゃいけない」
一将 「そうだな」
将規は俯く。
一将 「なあ将規」
将規 「何」
一将 「二人が好きなのは分かった」
将規 「うん」
一将 「じゃあ」
将規 「?」
一将 「二人がいなくなったら困るのはどっちだ」
将規 「……え?」
予想外の質問だった。
一将 「会えなくなる」
一将 「話せなくなる」
一将 「隣にいなくなる」
一将 「想像してみろ」
将規は黙る。
答えは出ない。
でも。
胸が少し苦しくなった。
一将 「焦るな」
将規 「……」
一将 「まだ時間はある」
一将 「でも逃げるな」
将規 「ああ」
一将は立ち上がる。
一将 「ちなみに」
将規 「?」
一将 「俺なら絶対決められない」
将規 「おい」
一将 「だからお前は偉い」
将規 「褒めてないだろ」
一将は笑いながら部屋を出ていった。
翌日。
昼休み。
学校。
将規は中庭のベンチにいた。
そこへ。
結衣 「将規くん」
将規 「結衣さん」
結衣は一将の恋人。
将規にとっても相談しやすい相手だった。
結衣 「元気ないね」
将規 「分かります?」
結衣 「分かる」
即答。
最近そればかりだった。
結衣 「恋愛?」
将規 「……」
結衣 「当たり?」
将規 「なんでみんな分かるんですか」
結衣 「顔」
将規 「そんなにですか」
結衣 「そんなに」
二人は笑う。
そして。
将規は少しだけ話した。
真優のこと。
美優のこと。
文化祭のこと。
全部は言わない。
でも。
結衣は静かに聞いてくれた。
結衣 「難しいね」
将規 「ですよね」
結衣 「うん」
少し考える。
結衣 「でもね」
将規 「?」
結衣 「恋って」
将規 「うん」
結衣 「条件じゃないと思う」
将規は黙る。
結衣 「優しいから好き」
結衣 「可愛いから好き」
結衣 「一緒にいて楽しいから好き」
結衣 「もちろん大事」
将規 「……」
結衣 「でも最後は」
結衣は微笑む。
結衣 「その人じゃなきゃ駄目かどうか」
将規 「……」
胸が少しだけ揺れる。
結衣 「将規くん」
将規 「はい」
結衣 「きっと答えはあるよ」
将規 「そうですかね」
結衣 「うん」
結衣は優しく笑った。
放課後。
文化祭準備。
真優と美優がいつものように言い合っている。
真優 「そこ右!」
美優 「左」
真優 「右!」
美優 「左」
将規 「またかよ」
三人とも笑う。
その瞬間。
将規は少しだけ思った。
一将の言葉。
結衣の言葉。
二つの言葉が心の中で重なる。
――いなくなったら困るのはどっちか。
――その人じゃなきゃ駄目か。
文化祭まで、あと十日。
答えはまだ見えない。
でも。
将規の心は少しずつ。
本当に少しずつ。
核心へ近づいていた。
第12話 完




