第10話「真太郎の帰省」
文化祭まで、あと十二日。
火曜日。
放課後。
文化祭準備は佳境を迎えていた。
教室中に段ボールや飾りが並び、生徒たちが慌ただしく動き回っている。
真優 「将規!」
将規 「ん?」
真優 「そこの飾り取って!」
将規 「了解」
美優 「将規」
将規 「今度は何だ」
美優 「テープなくなった」
将規 「持ってくる」
玲美愛 「便利すぎる」
龍太郎 「完全に働かされてるな」
将規 「否定できない……」
教室は笑いに包まれた。
その頃。
駅前。
一人の青年が改札を抜けていた。
真衣の兄――
真太郎。
大学三年生。
数年ぶりの長めの帰省だった。
真太郎 「懐かしいな」
駅前の景色を見渡す。
昔と変わった店。
変わらない通学路。
少しだけ笑みが浮かぶ。
夕方。
真衣の家。
玄関のチャイムが鳴る。
ピンポーン。
真衣 「はーい」
ドアを開ける。
そして。
真衣 「……え?」
固まる。
目の前には。
大きなバッグを持った兄。
真太郎 「ただいま」
真衣 「兄ちゃん!?」
真太郎 「久しぶり」
真衣 「なんで今日!?」
真太郎 「帰ってきたから」
真衣 「知ってる!」
真太郎は笑った。
真衣も思わず笑う。
リビング。
真衣 「連絡してよ!」
真太郎 「驚かせたかった」
真衣 「迷惑」
真太郎 「嘘だな」
真衣 「……少し嬉しい」
真太郎 「素直でよろしい」
真衣 「うるさい」
昔と変わらない会話。
家族だからできるやり取りだった。
夕食後。
二人でリビングに残る。
真太郎 「学校は?」
真衣 「普通」
真太郎 「友達は?」
真衣 「いる」
真太郎 「恋愛は?」
真衣 「いない」
即答だった。
真太郎 「早いな」
真衣 「いないから」
真太郎 「ふーん」
真衣 「何その反応」
真太郎は笑う。
真太郎 「文化祭近いんだろ」
真衣 「うん」
真太郎 「写真見た」
真衣 「送ったし」
真太郎 「楽しそうだった」
真衣 「楽しいよ」
自然な笑顔だった。
真太郎はその表情を見る。
そして少し安心する。
真太郎 「この男子」
真衣 「?」
スマホの写真を見せる。
そこには将規の姿。
真衣 「将規?」
真太郎 「仲いいのか」
真衣 「普通」
真太郎 「普通ねぇ」
真衣 「普通」
少しだけ視線を逸らした。
真太郎は何も言わない。
ただ。
妹の反応を見ていた。
真太郎 「まあいい」
真衣 「何が」
真太郎 「楽しそうなら」
真衣 「変なの」
真太郎 「兄だからな」
真衣は苦笑した。
夜。
真衣の部屋。
窓の外には星空。
ノック音。
コンコン。
真衣 「どうぞ」
入ってきたのは真太郎だった。
真太郎 「起きてるか」
真衣 「起きてる」
ベッドの近くに座る。
静かな時間。
真太郎 「真衣」
真衣 「ん?」
真太郎 「無理してないか」
真衣 「してない」
真太郎 「本当に?」
真衣 「……」
少し沈黙。
真太郎は優しく笑う。
真太郎 「お前さ」
真衣 「何」
真太郎 「昔から人の心配ばっかりしてた」
真衣 「そうだっけ」
真太郎 「そう」
真衣 「覚えてない」
真太郎 「俺は覚えてる」
静かな声だった。
真太郎 「だから」
真衣 「?」
真太郎 「たまには自分の気持ちも大事にしろ」
真衣は目を伏せる。
その言葉が妙に胸に刺さった。
真太郎 「文化祭、楽しみにしてる」
真衣 「うん」
真太郎 「終わったら色々聞かせろ」
真衣 「嫌だ」
真太郎 「却下」
真衣 「横暴」
二人は笑った。
部屋を出た後。
真衣は一人になる。
そして窓の外を見る。
文化祭まで、あと十二日。
将規。
真優。
美優。
みんな答えへ向かっている。
真衣 「自分の気持ち……」
兄の言葉を思い出す。
それは。
今まで考えないようにしてきたことだった。
文化祭の日。
何かが終わる。
そして何かが始まる。
そんな予感がしていた。
第10話 完




