第2話「買い出しと、それぞれの距離」
日曜日。
午前九時。
駅前。
将規 「……早く来すぎた」
最近この台詞をよく言っている気がした。
待ち合わせは九時半。
なのに三十分前。
すると。
真優 「あ」
美優 「いた」
将規 「お前らもか」
真優 「将規こそ」
美優 「学習しないね」
将規 「人のこと言えないだろ」
三人は思わず笑った。
少しだけ。
本当に少しだけ。
文化祭の期限を忘れられる瞬間だった。
ショッピングモール。
文化祭で使う装飾品の買い出し。
実行委員会から渡されたリストは予想以上に長かった。
真優 「風船百個」
美優 「画用紙三十枚」
将規 「テープ十個」
真優 「多くない?」
美優 「絶対足りなくなる」
将規 「経験者みたいに言うな」
美優 「去年足りなかった」
真優 「あったね」
将規 「そうだったのか」
三人で店内を歩く。
どこから見ても普通の友達。
でも違う。
三人とも分かっている。
この関係には期限がある。
文房具売り場。
真優 「将規」
将規 「ん?」
真優 「この色どう思う?」
真優が赤い画用紙を持ち上げる。
将規 「目立つな」
真優 「私っぽい?」
将規 「ぽい」
真優 「即答」
将規 「事実だろ」
真優 「嬉しい」
少し笑う。
すると。
美優が青い画用紙を持ち上げた。
美優 「じゃあ私は?」
将規 「落ち着いてる」
美優 「それだけ?」
将規 「美優っぽい」
美優 「……ならいい」
真優 「なんか扱い違わない?」
将規 「同じだろ」
真優 「違う」
美優 「少し違う」
将規 「難しいなお前ら」
昼。
フードコート。
真優はオムライス。
美優はうどん。
将規はカレー。
真優 「相変わらず子供」
将規 「カレーは国民食だ」
美優 「反論になってない」
将規 「ひどい」
三人で笑う。
しばらく雑談。
文化祭。
授業。
ゲーム。
テレビ。
他愛もない話。
でも。
真優が急に言った。
真優 「ねえ」
将規 「ん?」
真優 「文化祭終わったらさ」
空気が少し変わる。
美優も顔を上げる。
真優 「どうなるんだろうね」
将規 「……」
答えられない。
美優が静かに言う。
美優 「変わると思う」
真優 「うん」
将規 「……そうだな」
沈黙。
少し重い。
すると。
真優 「あーもう!」
将規 「!?」
真優 「せっかく遊んでるのに暗い話禁止!」
美優 「自分から振ったのに」
真優 「今は禁止!」
将規 「理不尽だな」
午後。
雑貨店。
買い物も終盤。
真優が突然立ち止まる。
真優 「見て」
将規 「ん?」
美優も近づく。
そこには小さなキーホルダー。
双子のうさぎ。
真優 「かわいい」
美優 「かわいい」
将規 「本当に仲いいな」
真優 「双子だから」
美優 「当然」
二人は笑う。
その笑顔を見て。
将規は思う。
やっぱり。
この二人は大切だ。
だからこそ。
選ぶのが怖い。
夕方。
帰り道。
荷物を持ちながら歩く三人。
オレンジ色の空。
秋の風。
真優 「疲れたー」
将規 「結構歩いたからな」
美優 「足痛い」
真優 「おばあちゃん?」
美優 「真優より若い」
真優 「一緒だよ!」
将規 「当たり前だろ」
また笑う。
駅前。
解散の時間。
真優 「じゃあまた明日」
美優 「またね」
将規 「おう」
いつも通りの会話。
でも。
真優は少しだけ立ち止まる。
真優 「将規」
将規 「ん?」
真優 「今日楽しかった?」
将規 「楽しかった」
即答だった。
真優は少し目を見開く。
そして笑う。
真優 「そっか」
美優も静かに聞いていた。
将規 「二人は?」
真優 「楽しかった」
美優 「うん」
短い言葉。
でも本心だった。
帰宅後。
真優の部屋。
真優 「強敵だなぁ」
ベッドに倒れ込む。
美優の存在。
将規の存在。
全部が簡単じゃない。
でも。
真優 「負けない」
そう呟いた。
同じ頃。
美優の部屋。
窓の外を見る。
今日のことを思い出す。
笑った時間。
話した時間。
将規の顔。
美優 「私も」
小さく呟く。
美優 「負けない」
そして。
将規の部屋。
机に向かいながら。
兄の言葉を思い出す。
――一緒にいたい人を選べ。
将規 「……難しすぎるだろ」
誰もいない部屋で呟く。
文化祭まで、あと二十日。
恋の期限は。
確実に近づいていた。
第2話 完




