第96話「兄同士」
その日の夜。
将規が部屋に戻った後。
一将はスマホを手に取った。
連絡先を開く。
少し考えてから、ある名前をタップする。
――雷斗。
数回のコール。
雷斗 「もしもし」
一将 「久しぶりだな」
雷斗 「お?」
少し驚いた声。
雷斗 「将規の兄貴か」
一将 「そっちこそ。真優と美優の兄だろ」
雷斗 「そうなるな」
二人は軽く笑った。
面識はある。
だが頻繁に話す仲ではない。
雷斗 「で?」
一将 「相談を受けた」
雷斗 「こっちもだ」
沈黙。
そして同時に言う。
「恋愛の件だろ」
一瞬。
二人とも吹き出した。
雷斗 「完全に同じか」
一将 「だな」
夜の電話。
互いの家。
しかし話題は一つだった。
将規。
真優。
美優。
雷斗 「あいつら、本気だぞ」
一将 「将規もな」
雷斗 「知ってる」
雷斗は窓の外を見る。
雷斗 「だから面倒なんだよ」
一将 「違いない」
しばらく沈黙。
雷斗が先に口を開く。
雷斗 「正直」
雷斗 「兄としては複雑だ」
一将 「双子だからか」
雷斗 「ああ」
雷斗は苦笑する。
雷斗 「片方が泣く未来が見えてる」
一将も黙る。
それは否定できない。
雷斗 「将規はどうだ?」
一将 「まだ迷ってる」
雷斗 「そうか」
一将 「でも逃げる気はない」
雷斗 「それならいい」
静かな声だった。
一将 「お前は?」
雷斗 「真優も美優も、本気だ」
雷斗 「だから口は出さない」
一将 「同じだな」
雷斗 「同じだ」
二人は笑う。
兄だから分かる。
最後は本人が決めるしかない。
雷斗 「ただな」
一将 「ん?」
雷斗 「どっちを選んでも」
雷斗 「俺は将規を恨まない」
一将は少し驚く。
雷斗 「恋愛だからな」
雷斗 「勝ち負けじゃない」
一将はゆっくり頷く。
一将 「助かる」
雷斗 「でも」
声が少し低くなる。
雷斗 「泣かせたら一発殴る」
一将 「ははっ」
思わず笑う。
一将 「その時は俺も手伝う」
雷斗 「おい」
今度は雷斗が笑った。
しばらく他愛もない話をする。
そして。
雷斗 「文化祭だっけ」
一将 「ああ」
雷斗 「終わったら全部変わるな」
一将 「たぶんな」
沈黙。
二人とも分かっていた。
今はまだ前夜だ。
本当の答えは先にある。
雷斗 「じゃあな」
一将 「おう」
通話が切れる。
部屋が静かになる。
一将はスマホを置いた。
窓の外には夜空。
そして別の場所では、雷斗も同じように空を見上げていた。
兄たちは見守るしかない。
選ぶのは、自分たちではないから。
文化祭まで、あと二十六日。
それぞれの恋は、少しずつ結末へ向かっていた。
第96話 完。




