第95話「兄への相談、再び」
日曜日。
文化祭まで、あと四週間。
将規は朝から落ち着かなかった。
机に向かっても集中できない。
ゲームをしても頭に入らない。
スマホを見ても、真優と美優の言葉ばかり思い出す。
――文化祭までに、一人を選んで。
将規 「……はぁ」
大きなため息。
そして。
将規 「聞くか」
向かった先は、兄の部屋だった。
コンコン。
一将 「開いてるぞ」
将規 「入るぞ」
部屋に入る。
兄の一将は参考書を閉じて振り返った。
一将 「珍しいな」
将規 「相談」
一将 「おお?」
その一言で、一将はだいたい察した。
一将 「恋愛か」
将規 「なんで分かるんだよ」
一将 「弟だから」
即答だった。
将規 「意味分からん」
一将 「で?」
将規は少し迷った。
だが。
ここまで来たら隠せない。
将規 「実は――」
真優。
美優。
告白。
自分の答え。
文化祭までの期限。
全部話した。
話し終わる頃には、一時間近く経っていた。
沈黙。
一将は腕を組む。
将規 「……どう思う」
一将 「難しいな」
珍しく即答しなかった。
将規 「だろ」
一将 「でも一つ聞く」
将規 「何だよ」
一将 「もし二人とも明日転校するって言われたら?」
将規 「は?」
突然だった。
一将 「会えなくなる」
一将 「連絡も取れない」
一将 「二度と会えない」
将規 「極端すぎるだろ」
一将 「いいから考えろ」
将規は黙る。
真優。
美優。
どちらも会えなくなる。
胸が苦しくなる。
一将 「先に思い浮かんだのは?」
将規 「……」
答えられない。
本当に。
答えられなかった。
一将は少し笑った。
一将 「ならまだ迷ってるな」
将規 「当たり前だろ」
一将 「うん」
そして。
一将は真面目な顔になる。
一将 「将規」
将規 「ん?」
一将 「好きな人を選ぶんじゃない」
将規 「?」
一将 「一緒にいたい人を選べ」
将規は黙る。
一将 「好きなんて感情は変わる」
一将 「楽しいも変わる」
一将 「でも」
一将は静かに続けた。
一将 「困った時」
一将 「苦しい時」
一将 「十年後」
一将 「それでも隣にいてほしいと思える相手は誰だ」
部屋が静かになる。
将規は言葉を失った。
一将 「答えは俺が決めるものじゃない」
将規 「……ああ」
一将 「でもな」
一将は笑った。
一将 「どっちを選んでも、選ばなかった方を忘れることはないぞ」
将規 「!」
一将 「それが恋愛だ」
将規は初めて気づく。
自分は。
「傷つけない選択」を探していた。
でもそんなものは最初から存在しない。
一将 「だから覚悟しろ」
将規 「覚悟」
一将 「選ぶってそういうことだ」
沈黙。
しばらくして。
将規は立ち上がる。
将規 「ありがとな」
一将 「おう」
将規 「少しだけ整理できた」
一将 「文化祭までまだある」
将規 「ああ」
一将 「逃げるなよ」
将規は苦笑した。
将規 「分かってる」
部屋を出る。
廊下を歩きながら、将規は兄の言葉を繰り返していた。
――好きな人じゃない。
――一緒にいたい人を選べ。
文化祭まで、あと二十七日。
将規の中で、少しずつ何かが動き始めていた。
第95話 完。




