第94話「兄への相談」
その週の土曜日。
午後。
真優と美優は、久しぶりに兄の家を訪れていた。
二人の兄――雷斗。
昔から面倒見がよく、双子にとっては頼れる存在だった。
ピンポーン。
しばらくしてドアが開く。
雷斗 「お、珍しいな」
真優 「来ちゃった」
美優 「お邪魔します」
雷斗は二人の顔を見る。
そしてすぐ気づいた。
雷斗 「……何かあったな」
真優 「なんで分かるの」
雷斗 「兄だから」
即答だった。
リビング。
飲み物を渡され、三人はソファに座る。
しばらく雑談。
しかし。
雷斗 「で?」
真優 「うっ」
美優 「やっぱり隠せない」
雷斗 「恋愛だろ」
真優 「なんで!?」
雷斗 「顔」
美優 「そんなに分かりやすい?」
雷斗 「めちゃくちゃ」
双子は同時にため息をついた。
雷斗 「相手は将規か」
真優 「……」
美優 「……」
雷斗 「図星か」
二人は観念した。
真優 「実はね――」
そこから、これまでのことを話した。
将規との出会い。
少しずつ近づいた関係。
将規の答え。
そして文化祭までの期限。
全部。
一時間近くかかった。
話し終わる。
沈黙。
雷斗は腕を組んだ。
真優 「何か言ってよ」
美優 「兄として」
雷斗 「そうだな」
少し考える。
雷斗 「まず将規は馬鹿だな」
真優 「やっぱり?」
美優 「少し思った」
雷斗 「でも」
雷斗は笑う。
雷斗 「本気なんだろうな」
二人は顔を上げる。
雷斗 「適当に好きなら、どっちか選んで終わってる」
真優 「……」
美優 「……」
雷斗 「選べないくらい大事なんだろ」
静かな言葉だった。
真優は少しだけ視線を落とす。
美優も同じ。
雷斗 「ただな」
兄の声が少し真面目になる。
雷斗 「選べないことと、選ばないことは違う」
真優 「!」
美優 「……」
雷斗 「だからお前らが期限を決めたのは正解だ」
二人は驚いた。
雷斗 「将規にも考える時間が必要」
雷斗 「でも無限に待たせるのは違う」
真優 「そっか」
美優 「うん」
雷斗 「あと一つ」
雷斗は少し笑った。
雷斗 「文化祭までの一か月」
真優 「うん」
美優 「何?」
雷斗 「勝負しろ」
二人は目を丸くする。
雷斗 「遠慮するな」
雷斗 「将規に選ばれるためじゃない」
雷斗 「自分が後悔しないためだ」
沈黙。
真優の表情が変わる。
美優も小さく頷く。
雷斗 「結果がどうなっても」
雷斗 「本気で向き合ったなら、きっと納得できる」
真優 「……兄ちゃん」
美優 「ありがとう」
雷斗は照れくさそうに頭をかいた。
雷斗 「ただし」
真優 「?」
美優 「?」
雷斗 「文化祭終わったら報告な」
真優 「する」
美優 「絶対する」
雷斗 「よし」
三人は笑った。
帰り道。
夕焼けの空の下。
真優 「負けない」
美優 「私も」
二人は顔を見合わせる。
そして同時に笑う。
双子だからこそ分かる。
相手が本気だということを。
文化祭まで、あと四週間。
恋の勝負は、ここからだった。
第94話 完。




