第87話「最終告知」
火曜日。
朝から空気が違っていた。
いや、正確には――「違うふりができなくなっていた」。
将規は教室に入る前、一度だけ立ち止まった。
中から声が聞こえる。
真優の笑い声。
美優の静かな返事。
でも、その間にあった“いつもの緩さ”はもうない。
扉を開ける。
真優 「おはよ」
美優 「おはよう」
将規 「……おう」
たったそれだけ。
昼休み。
玲美愛 「ねえ」
将規 「来るな」
玲美愛 「無理、今日は最後の空気」
将規 「勝手に決めるな」
玲美愛 「いや決まってるでしょ」
将規 「何がだよ」
玲美愛 「終わるやつ」
その言葉だけが妙に残る。
放課後。
屋上前の廊下。
将規は呼び出されていないのに、そこにいた。
いや――来るとわかっていた。
真優と美優は、同時に階段から上がってくる。
真優 「来てたんだ」
美優 「うん」
沈黙。
風が強い。
真衣はまだいない。
真優 「で」
真優はまっすぐ見る。
真優 「最後の話って何?」
美優 「ちゃんと決める日ってことだよね」
将規 「……ああ」
喉が乾く。
将規 「真衣がそう言った」
真優 「真衣、また勝手なことしてる」
美優 「でも、必要だと思う」
真優と美優の視線が一瞬だけぶつかる。
火花ではない。
もっと静かで、重いもの。
真優 「じゃあさ」
真優は一歩前に出る。
真優 「いつ?」
美優 「逃げられないようにして」
将規は息を吸う。
将規 「金曜日」
一瞬、風が止まる。
将規 「金曜日に、答え出す」
沈黙。
真優 「……わかった」
美優 「うん」
驚くほどあっさりだった。
でも、その裏にあるものは軽くない。
真優 「じゃあそれまで」
真優は少しだけ笑う。
真優 「ちゃんと見ててよ」
美優 「私も」
美優も静かに言う。
美優 「最後まで、ちゃんと」
将規は何も返せない。
その時。
背後から声。
真衣 「やっと決まったね」
三人が振り向く。
真衣は階段の上に立っていた。
真衣 「じゃあルール確認」
真衣は指を一本立てる。
真衣 「金曜日」
真衣 「そこで全部終わり」
真衣 「途中で逃げたら失格」
真衣 「延長なし」
真衣は淡々と言う。
まるで試合の宣告みたいに。
真優 「わかってる」
美優 「うん」
将規 「……ああ」
真衣は少しだけ目を細める。
真衣 「いい顔になってきた」
真衣 「ようやく“選ぶ側”になったね」
将規は何も言えなかった。
その夜。
将規は机に向かっていた。
何も書けないノート。
何も進まない時間。
スマホには何も来ない。
でも、来ないことが一番怖い。
――真優。
――美優。
どちらも、もう“待っているだけの存在”じゃない。
選ばれるために動き始めた人間だ。
そして金曜日は、すぐそこまで来ている。
第87話 完




