第85話「保留の代償」
日曜日。
静かすぎる朝だった。
将規は目が覚めても、すぐに起き上がれなかった。
――昨日の河川敷。
真優の目。
美優の言葉。
真衣の「決定」。
全部がまだ頭の中で回っている。
スマホを見ても、通知はない。
真優からも、美優からも。
それが逆に怖かった。
学校がない休日なのに、落ち着かない。
午後。
将規は外に出た。
理由はない。
ただ家にいるのがしんどかった。
河川敷。
昨日と同じ場所。
風が少し冷たい。
そこに――
真衣がいた。
将規 「なんでいるんだよ」
真衣 「来ると思った」
即答。
将規 「ストーカーか」
真衣 「観察者」
軽く笑う。
でも目は笑っていない。
真衣 「で、どう?」
将規 「どうって何がだよ」
真衣は少しだけ間を置く。
真衣 「決められなかったこと」
将規は黙る。
真衣 「あれ、優しさじゃないよ」
将規 「わかってるって言ってるだろ」
真衣 「うん」
真衣 「でも、わかってても変わらないのが一番厄介」
風が吹く。
真衣は川を見ながら続ける。
真衣 「真優は“今を壊されたくない人”」
真衣 「美優は“未来を壊されたくない人”」
真衣 「じゃあ将規は?」
将規 「……どっちも壊したくない」
真衣は少しだけ目を細めた。
真衣 「それが一番壊すんだよ」
沈黙。
その言葉が重く落ちる。
夜。
将規のスマホが鳴る。
真優『話したい』
少しして。
美優『少しだけいい?』
同じ時間。
別の場所。
どちらも“今すぐ”。
将規は画面を見つめたまま動けない。
選べない。
また同じだ。
そして、少しして――
真優から追いメッセージ。
真優『明日、ちゃんと来て』
美優も続ける。
美優『逃げないでね』
将規はスマホを置いた。
――逃げてるのか。
それとも。
――まだ間に合ってるのか。
翌日。
学校。
空気は、完全に変わっていた。
真優は将規を見ても、すぐに話さない。
美優も同じ。
でも、距離だけは近い。
近いのに遠い。
昼休み。
玲美愛 「ねえ」
将規 「来るな」
玲美愛 「無理」
玲美愛の声は少しだけ真剣だった。
玲美愛 「今のこれさ」
将規 「あ?」
玲美愛 「もう“恋愛”じゃなくて“覚悟の競争”だよ」
将規 「……」
玲美愛 「将規が動かない限り、ずっと続くやつ」
放課後。
真優も、美優も、何も言わないまま帰る。
ただ一言だけ。
真優 「また明日」
美優 「また明日」
同じ言葉。
違う意味。
夜。
真衣からメッセージ。
真衣『そろそろ限界だね』
将規は返信できなかった。
窓の外は暗い。
でも頭の中は、ずっと明るいままだった。
選ばないことは、止まることじゃない。
進み続けることだと、もう気づいてしまったから。
第85話 完




