第84話「答えの日」
土曜日。
空はやけに明るかった。
それが余計に、今日という日を際立たせていた。
将規は待ち合わせ場所へ向かう途中、何度も足を止めかけた。
――行く意味、あるのか。
――もう決まってるんじゃないか。
でもそのたびに、違う声が浮かぶ。
真優の声。
美優の声。
そして真衣のメッセージ。
『明日、ちゃんと来てね』
河川敷。
すでに三人は揃っていた。
真優。
美優。
真衣。
そして少し遅れて、将規。
沈黙。
風の音だけがやけに大きい。
真衣 「来たね」
将規 「なんでお前までいるんだよ」
真衣 「見届け役」
軽く言う。
でも目は真剣だった。
真優 「じゃあ」
真優が一歩前に出る。
真優 「今日で終わりにしよ」
美優 「うん」
美優も頷く。
将規 「……終わり?」
真優 「曖昧なの」
美優 「全部」
二人の声が重なる。
でも、もう同じ方向じゃない。
真衣 「じゃ、主役どうぞ」
将規は一歩下がる。
いや、正確には――動けない。
真優 「私はね」
真優は少し笑う。
真優 「将規といると楽しい」
真優 「それだけじゃないけど、それが一番最初に来る」
真優 「今が欲しい」
真優 「ずっとじゃなくてもいい」
真優 「“今”を選んでほしい」
風が吹く。
次に美優。
美優 「私は」
美優は少しだけ目を閉じた。
美優 「将規といると落ち着く」
美優 「一緒にいる未来を想像できる」
美優 「無理しない関係でいたい」
美優 「“未来”を選んでほしい」
静かだった。
二人とも、泣いてはいない。
でも、引き下がる気もない。
真衣 「で?」
視線が将規に集まる。
将規は息を吸った。
でも、言葉が出ない。
どっちかを選ぶ。
それはわかっている。
でも――
選んだ瞬間、もう一つは消える。
真優が見ている。
美優が見ている。
真衣も見ている。
将規 「俺は……」
喉が詰まる。
沈黙。
長い沈黙。
そして――
将規 「まだ、決められない」
一瞬、風が止まった気がした。
真優の目が揺れる。
美優の指が少し動く。
真衣は小さく息を吐く。
真衣 「……やっぱりね」
真優 「ふざけないで」
初めて声が強くなる。
美優も静かに言う。
美優 「それ、もう優しさじゃないよ」
将規 「わかってる」
将規 「でも……」
言葉が続かない。
真衣が一歩前に出る。
真衣 「じゃあさ」
真衣 「決めるのはやめようか」
将規 「は?」
真衣 「“選ばせる”んじゃなくて、“選ばれる場所”に立てばいい」
真優 「意味わかんない」
美優 「どういうこと?」
真衣は二人を見てから、将規を見る。
真衣 「もう一回、ちゃんと向き合う時間を作る」
真衣 「逃げじゃなくて」
真衣 「整理の時間」
沈黙。
将規は何も言えなかった。
真衣 「じゃあ決定」
勝手に言う。
真優 「勝手すぎ」
美優 「でも……」
止まる。
二人とも、否定しきれない。
真衣 「次に会うときは」
真衣 「ちゃんと“答え”を持って来て」
風が吹く。
河川敷の空は、やけに広かった。
その帰り道。
三人はバラバラに帰った。
誰も笑っていない。
誰も泣いていない。
でも、確実に変わっていた。
そして将規は思う。
――俺は逃げたのか。
――それとも、まだ選ぶ資格があるのか。
答えは、まだ出ない。
ただ一つだけ確かなのは。
もう、戻れないということだった。
第84話 完




