第83話「選択の前夜」
金曜日。
朝の空は妙に澄んでいた。
将規はそれが逆に不気味に感じた。
教室。
真優はいつも通り笑っていた。
美優もいつも通り静かだった。
でも、どちらも「昨日までの普通」ではなかった。
将規 「おはよう」
真優 「おはよ」
美優 「おはよう」
短い会話が、やけに重い。
昼休み。
玲美愛 「ねえ」
将規 「来るな」
玲美愛 「無理、今日はガチでやばい日」
将規 「何がだよ」
玲美愛 「空気が“決着前”なんだよ」
将規 「勝手に決着させるな」
玲美愛は少しだけ真顔になる。
玲美愛 「将規さ」
将規 「ん?」
玲美愛 「今日、どっちかが動くよ」
将規 「……は?」
玲美愛 「いや、もう止まらないでしょこれ」
言い残して去っていく。
その言葉が、やけに頭に残った。
放課後。
真優 「将規」
校舎裏。
やはり呼び出したのは真優だった。
真優は、少しだけ風に髪を揺らしていた。
真優 「今日ね」
将規 「うん」
真優 「決めようと思ったんだけど」
将規 「……何を」
真優は一瞬だけ笑った。
真優 「やめた」
将規 「は?」
真優 「だってさ」
真優は一歩近づく。
真優 「まだ“勝てる”って思ってるから」
将規 「勝つとかじゃないだろ」
真優 「ううん、あるよ」
真優 「恋って、ちゃんと選ばせた方が勝ちでしょ」
その言葉に、将規は言い返せなかった。
真優 「だから今日はまだ動かない」
真優 「でも」
少し間。
真優 「明日はわからない」
真優はそう言って、離れていった。
夕方。
美優からメッセージ。
美優『今日、少し会える?』
短い。
逃げ場のない一言。
夜。
校舎裏。
美優はすでに立っていた。
美優 「来てくれてありがとう」
将規 「ああ」
沈黙。
美優はゆっくり言った。
美優 「私、決めたことがある」
将規 「……何だよ」
美優 「このまま待つのはやめる」
将規 「……っ」
美優はまっすぐ見る。
美優 「でも、奪いに行くって意味じゃない」
美優 「ちゃんと、最後に選ばれるようにする」
将規 「それって同じじゃ……」
美優 「違うよ」
静かに、でも強く。
美優 「私は“結果”じゃなくて、“理由”になりたい」
その言葉が、将規の中に刺さる。
言い返せない。
その時だった。
少し離れた場所。
真優 「ふーん」
真優が立っていた。
美優 「……」
真優 「やっぱりそう来るんだ」
美優 「別に隠してない」
真優は笑う。
でも目は笑っていない。
真優 「じゃあ、明日だね」
真優 「全部、はっきりさせよ」
将規 「おい待て」
誰も止まらない。
風だけが強くなる。
夜。
将規の部屋。
天井がやけに遠い。
スマホが鳴る。
真優からでも、美優からでもない。
真衣からだった。
真衣『明日、ちゃんと来てね』
たったそれだけ。
将規は画面を見つめたまま、息を吐く。
――明日。
それはもう、「日常の続き」じゃない。
第83話 完




