第81話「動き出す側」
水曜日。
朝から空気が違っていた。
将規はそれを言葉にできなかった。
ただ、教室に入った瞬間わかった。
――今日は何かが起きる。
真優はすでに席にいた。
美優は少し遅れて入ってきた。
そして、目が合う。
一瞬。
それだけで空気が止まる。
将規 「……おはよう」
真優 「おはよ」
美優 「おはよう」
普通の挨拶。
でも昨日までと違うのは、“間”だった。
昼休み。
玲美愛 「ねえねえ」
将規 「来るな」
玲美愛 「いや無理でしょこの空気」
将規 「どの空気だよ」
玲美愛 「三角関係が“進行形”の空気」
真優 「うるさい」
美優 「うるさい」
将規 「息ぴったりやめろ」
玲美愛はニヤニヤしたまま言った。
玲美愛 「で、誰か動いた?」
将規 「……知らねぇよ」
でも将規は気づいていた。
動いている。
確実に。
放課後。
真優 「将規」
校舎裏に呼び出された。
美優はいない。
真優は少しだけいつもより真剣な顔をしていた。
真優 「昨日さ」
将規 「うん」
真優 「美優と話した」
将規 「……そうか」
真優は小さく頷いた。
真優 「あの子、本気だね」
将規 「最初からだろ」
真優 「でもね」
真優は一歩近づいた。
真優 「私も、負けるつもりない」
将規は少しだけ息を飲んだ。
真優 「ただ待つだけじゃなくて」
真優 「ちゃんと、選ばせる」
将規 「選ばせるって……」
真優は笑った。
でも、その笑いはいつもの明るさじゃない。
真優 「私をちゃんと見て、後悔しないようにしてあげる」
その言葉は、優しさと強さの境界だった。
その頃。
別の場所。
美優は教室に残っていた。
ノートを閉じる。
そして静かに立ち上がる。
美優 「……こっちも、始めないと」
誰に言うでもない声。
夕方。
将規は帰り道で真衣に会う。
真衣 「お疲れ」
将規 「お前さ」
将規 「全部知ってるだろ」
真衣は少しだけ目を細めた。
真衣 「全部は知らないよ」
真衣 「でも、流れは見える」
将規 「最悪だな」
真衣 「でしょ?」
少し笑う。
でもすぐ真顔になる。
真衣 「将規」
真衣 「これからもっと面倒になるよ」
将規 「もう十分だろ」
真衣 「まだ序盤」
風が吹く。
真衣は静かに言った。
真衣 「“待つ側”が消えたら、恋は戦いになるから」
将規は何も言えなかった。
夜。
それぞれの部屋。
真優はスマホを見つめる。
美優は窓の外を見ている。
将規は天井を見ている。
そして真衣は、静かに笑っていた。
恋はもう、“日常”じゃなくなっていた。
第81話 完




