第79話「揺れる答え」
月曜日。
学校の廊下は、いつも通り騒がしいはずだった。
でも、将規には少し違って見えた。
真優と美優。
その二人が、いつもより“近い”。
将規 「……おはよう」
真優 「おはよ」
美優 「おはよう」
普通の挨拶。
なのに、どこか間がある。
真優 「昨日さ」
将規 「ん?」
真優 「楽しかったね」
美優 「うん」
将規 「ああ」
真優は少しだけ笑った。
でもその目は、どこか試すようだった。
美優は静かに将規を見ている。
逃がさない、と言うより。
待っている。
昼休み。
教室。
将規 「なんか今日お前ら静かじゃないか?」
真優 「別に」
美優 「普通」
将規 「いや絶対普通じゃないだろ」
真優と美優は顔を見合わせた。
そして同時に言った。
「気のせい」
将規 「絶対違う」
その時だった。
玲美愛 「青春の空気が重いぞー!」
将規 「うるせぇ来るな」
玲美愛 「え、なんか三角関係濃くなってない?」
真優 「なってない」
美優 「なってない」
将規 「なってるのかよ」
玲美愛 「なってるね」
即答だった。
放課後。
校舎裏。
風が少し冷たい。
将規 「で、何かあるなら言えよ」
真優 「じゃあ言う」
美優 「……うん」
将規は少し息を飲んだ。
真優 「私はさ」
真優は少し笑ってから続けた。
真優 「ちゃんと、見てほしいだけ」
将規 「見てるけど」
真優 「もっと」
短い言葉なのに、重い。
美優は一歩遅れて言った。
美優 「私は、急かしたいわけじゃない」
将規 「……」
美優 「でも、曖昧なままは嫌」
静かだった。
どっちも“好き”とは言わない。
でも確かにそれ以上のものがあった。
将規 「……まだ、決められない」
真優 「知ってる」
美優 「うん」
真優 「だから待つ」
美優 「待つ」
重なった言葉。
でもその“待つ”の意味は違う。
夕方。
帰り道。
将規は一人で歩いていた。
考えても答えが出ない。
真優の笑顔。
美優の静かな目。
どちらも頭から離れない。
その時。
後ろから声。
真衣 「ねえ」
将規 「……真衣」
真衣は並んで歩き出した。
真衣 「順調そうじゃん」
将規 「どこがだよ」
真衣 「だって迷ってる顔してる」
将規 「悪いかよ」
真衣は少し笑った。
真衣 「悪くないよ」
そして少しだけ間を置いて言った。
真衣 「でもね」
真衣 「そのままじゃ、誰も幸せにならないかもね」
将規は足を止めた。
真衣も止まる。
風が吹いた。
真衣 「ねえ将規」
真衣 「“答え”ってさ、優しさだけじゃ選べないよ」
沈黙。
将規は何も言えなかった。
その夜。
部屋の天井を見ながら、将規は思った。
――俺は、誰を選ぶ?
そして同時に思う。
――選んだ瞬間、誰かが傷つく。
答えはまだ、見えない。
でも時間だけは、進んでいく。
第79話 完




