第62話「静かな反撃」
翌日。
一年二組。
朝から妙な空気が流れていた。
理由は昨日。
真優が真衣に向かって、
「負けないから」
と宣言したからだ。
玲美愛 「昨日すごかったね!」
雅也 「お前どこから聞いた」
玲美愛 「情報網!」
賢太郎 「怖いな」
玲美愛 「褒め言葉?」
雅也 「違う」
将規は席に座りながらため息をついた。
将規 「平和に生きたい」
真衣 「無理」
将規 「即答するな」
真衣 「現実を教えた」
将規 「余計なお世話だ」
すると。
美優が近づいてきた。
真優でも真衣でもない。
美優だ。
将規 「ん?」
美優 「将規」
将規 「珍しいな」
美優 「放課後」
将規 「うん」
美優 「一緒に帰って」
将規 「え?」
美優 「お願い」
将規 「別にいいけど」
美優 「よかった」
それだけ言って席へ戻る。
真衣 「……」
真優 「……」
将規 「なんだその顔」
二人 「別に」
全然別にじゃなかった。
放課後。
校門前。
将規 「待った?」
美優 「少し」
二人きり。
珍しい組み合わせだった。
歩き始める。
しばらく沈黙。
将規 「何か話あるのか?」
美優 「ない」
将規 「ないのか」
美優 「ただ帰りたかった」
将規 「そうか」
また沈黙。
でも不思議と気まずくない。
美優 「ねぇ」
将規 「ん?」
美優 「観覧車」
将規 「!」
将規は思わず足を止めた。
美優 「見た」
将規 「……そうか」
美優 「真衣と」
将規 「偶然だ」
美優 「知ってる」
少し間。
美優 「楽しそうだった」
将規 「普通だったぞ」
美優 「嘘」
将規 「なんでだよ」
美優 「顔」
将規 「見てたのか」
美優 「うん」
美優は少し笑った。
珍しく柔らかい笑顔だった。
公園。
ベンチに座る。
夕日が差し込む。
美優 「私ね」
将規 「うん」
美優 「真優とは違う」
将規 「急だな」
美優 「真衣とも違う」
将規 「まぁ違うな」
美優 「だから」
将規 「うん」
美優 「私のやり方で行く」
将規 「何の話だ?」
美優 「秘密」
将規 「意味分からん」
美優 「それでいい」
少しだけ笑う。
将規もつられて笑った。
その頃。
真優と真衣。
偶然廊下で鉢合わせしていた。
真優 「……」
真衣 「……」
数秒。
静寂。
そして。
真衣 「美優ちゃん、動いたね」
真優 「うん」
真衣 「予想より早かった」
真優 「私も驚いた」
真衣 「負ける気ないなぁ」
真優 「真衣ちゃんもね」
二人とも笑っている。
でも目は本気だった。
一方。
玲美愛。
玲美愛 「龍太郎ー!」
葉山龍太郎 「お疲れっす!」
玲美愛 「今日ヒマ?」
葉山龍太郎 「部活ないっす!」
玲美愛 「じゃあ一緒に帰ろ!」
葉山龍太郎 「いいっすよ!」
玲美愛 「やった!」
賢太郎 「分かりやすい」
雅也 「もはや隠してない」
夕方。
将規と美優。
帰り道の終点。
美優 「ありがとう」
将規 「何が」
美優 「一緒に帰ってくれて」
将規 「別に大したことじゃない」
美優 「私には大したこと」
将規 「……そうか」
少しだけ沈黙。
そして。
美優 「またね」
将規 「ああ」
美優は歩き出す。
その背中を見ながら。
将規は考えていた。
真衣。
真優。
美優。
最近。
三人といる時の気持ちが違う。
でも。
まだ答えは見えない。
その夜。
美優は自室のベッドに座っていた。
そして静かに呟く。
美優 「一歩」
ほんの小さな一歩。
でも。
確実な前進だった。
静かな少女は、
誰にも気付かれないまま反撃を始めていた。
第62話 完




