第56話「リレー前の静かな嵐」
体育祭は中盤。
空は少し雲が流れ始めていた。
次の競技は、50m走。
放送 『一年二組・女子50m走、男子50m走、順に行います!』
校庭の空気が一気に張り詰める。
玲美愛 「きたぁぁぁ!!走るやつ!」
雅也 「お前はまず落ち着け」
賢太郎 「結果が読めるのが怖い」
スタートライン。
女子50m走。
真優 「緊張する」
美優 「うん」
真衣 「勝つよ」
玲美愛 「私は無理!」
そしてスタート。
パンッ!
結果。
放送 『1位・真優、6秒23』
放送 『同着・美優、6秒23』
観客 「おおおお!」
玲美愛 「双子速っ!」
真衣 「やるね」
真優 「え、同じ?」
美優 「うん」
同時ゴール。
ほんのわずかな差すらなかった。
そして真衣。
真衣 「負けないし」
スタート。
パンッ!
全力で走る。
だが
放送 『3位・真衣、7秒00』
真衣 「ちょっと待って」
将規 「普通だな」
真衣 「普通って何」
将規 「7秒ちょうどは普通だろ」
真衣 「悔しい」
でも笑っていた。
男子50m走。
空気が変わる。
雅也 「来るぞ」
賢太郎 「本番だな」
スタート。
パンッ!
爆発的に飛び出す。
放送 『1位・雅也、6秒42』
雅也 「よし」
賢太郎 「速いな」
将規 「お前速いな」
雅也 「まぁな」
続いて将規。
パンッ!
無駄のないフォーム。
安定した走り。
放送 『2位・将規、6秒58』
真衣 「惜しい!」
将規 「十分だろ」
真衣 「もっといける!」
将規 「うるさい」
龍太郎。
葉山龍太郎 「いきます!」
パンッ!
元気なスタートだが少し力み気味。
放送 『3位・葉山龍太郎、7秒56』
葉山龍太郎 「うわー!」
玲美愛 「ドンマイ!」
玲美愛 「……速いのに優しいの不思議」
そして問題の玲美愛。
玲美愛 「いくぞー!!」
パンッ!
勢いだけは満点。
しかし
フォーム崩壊。
放送 『最下位・玲美愛、8秒54』
玲美愛 「知ってた!!」
雅也 「逆に安心するわ」
賢太郎 「ブレないな」
さらに参考記録。
玲美菜 「がんばる!」
パンッ!
走る。
しかし
放送 『12秒』
玲美愛 「私より遅いのやめて!」
玲美菜 「えへへ」
結果が出揃う。
女子
真優・美優:6秒23(同着)
真衣:7秒00
玲美愛:8秒54
玲美菜:12秒
男子
雅也:6秒42
将規:6秒58
龍太郎:7秒56
校庭はざわついていた。
でも。
その中で一番静かだったのは、
真衣だった。
真衣 「……6秒か」
将規 「何考えてる」
真衣 「いや」
真衣 「ちょっと悔しいだけ」
将規 「らしくないな」
真衣 「そう?」
真優はその会話を遠くで見ていた。
真優 「速いね、やっぱり」
美優 「うん」
でも。
真優の胸には小さな違和感があった。
(速さじゃない)
(何かが違う)
美優も同じように感じていた。
玲美愛はベンチで倒れていた。
玲美愛 「もう走りたくない……」
葉山龍太郎 「お疲れっす」
玲美愛 「龍太郎は普通に速いのずるい」
葉山龍太郎 「普通っすよ」
玲美愛 「その普通がムカつく」
葉山龍太郎 「えぇ……」
でもそのやり取りは、どこか楽しそうだった。
将規は空を見ていた。
将規 「なんかさ」
真衣 「ん?」
将規 「みんな本気だな」
真衣 「今さら?」
将規 「いや、そうじゃなくて」
将規 「ちょっと違う気がする」
真衣 「何が?」
将規 「……分からん」
でも確かに。
この体育祭はただの競技ではなくなっていた。
誰かを意識して。
誰かに追いつこうとして。
誰かの隣に立ちたくて。
走っている。
体育祭は、いよいよ最終競技へ向かう。
リレー。
すべての想いが交差する舞台。
第56話 完




