第55話「勝者と揺れる心」
体育祭・二人三脚。
ゴール直前。
真衣と将規ペアは、トップ争いのまま並んでいた。
観客のざわめきが一気に大きくなる。
玲美愛 「え、速い速い!」
雅也 「マジで勝つぞこれ」
賢太郎 「いや、まだ分からん」
真衣 「いくよ、将規!」
将規 「だから急ぐなって!」
真衣 「今でしょ!」
将規 「何年前のネタだ!」
そして。
ゴールテープ。
パンッ!
一瞬の静寂。
その後
放送 『一位……真衣・将規ペア!』
校庭 「おおおおお!!」
玲美愛 「えええええ!?」
雅也 「マジかよ」
賢太郎 「強すぎる」
真衣は息を切らしながら笑った。
真衣 「勝った」
将規 「お前が暴走しただけだろ」
真衣 「でも勝った」
将規 「まぁな」
真衣 「楽しかった」
その笑顔は、いつもより少しだけ静かだった。
その様子を見ていた真優。
真優 「……すごいね」
賢太郎 「気にするな」
真優 「うん」
でも。
胸の奥が少しだけ苦しかった。
(負けた)
競技じゃない。
でも、どこかでそう感じてしまった。
美優。
美優 「速い」
雅也 「まぁな」
美優 「……」
雅也 「お前らも悪くなかったぞ」
美優 「うん」
でも視線はゴールから離れない。
(あの距離)
(あの息の合い方)
小さな焦りが生まれていた。
玲美愛。
玲美愛 「いたたた……」
転倒のダメージで座り込む。
葉山龍太郎 「大丈夫っすか!?」
玲美愛 「うん……」
でも顔は赤いまま。
玲美愛 (やばい)
(龍太郎かっこよすぎ)
転んだのに。
手を差し伸べられたあの瞬間が頭から離れない。
玲美愛 「……もう無理」
葉山龍太郎 「え?」
玲美愛 「いやなんでもない!」
表彰後。
校庭の隅。
真衣と将規。
真衣 「ね、言ったでしょ?」
将規 「お前が速すぎるだけだ」
真衣 「でも勝った」
将規 「はいはい」
真衣 「ねぇ将規」
将規 「ん?」
真衣 「次も一緒がいい」
将規 「却下」
真衣 「即答ひどい」
真衣は笑う。
でもその笑顔の奥には、少しだけ真剣さが混ざっていた。
その頃。
真優は一人で空を見ていた。
真優 「……悔しいな」
賢太郎 「珍しいな」
真優 「そうかな」
賢太郎 「お前、負けてもそんな顔しないタイプだろ」
真優 「うん」
真優 「でも今回は違うかも」
賢太郎 「何が」
真優 「なんとなく」
賢太郎はそれ以上聞かなかった。
美優も同じように立っていた。
美優 「……」
雅也 「何考えてる」
美優 「別に」
雅也 「嘘つくな」
美優 「……ちょっと」
美優 「強くなりたい」
雅也 「は?」
美優 「なんでもない」
でもその目は、いつもより少しだけ揺れていた。
そして玲美愛。
葉山龍太郎 「次の競技いけます?」
玲美愛 「うん!」
即答。
でも心の中はぐちゃぐちゃだった。
(好き)
(たぶん好き)
(でもこれでいいの?)
初めての感情は、まだ整理できないまま。
それでも。
隣にいる龍太郎を見ると。
少しだけ安心した。
体育祭はまだ続く。
でもこの日、
すでに全員の心は動き始めていた。
勝ち負けではなく。
気持ちのほうで。
第55話 完




