第52話「気付いてしまった気持ち」
体育祭練習は佳境に入っていた。
校庭には掛け声が響く。
玲美愛 「龍太郎ー!いくよー!」
葉山龍太郎 「はいっす!」
だが最近の玲美愛は、どこか落ち着きがなかった。
教室。
昼休み。
真優 「玲美愛ちゃん、最近元気ない?」
美優 「うん」
玲美愛 「え!?元気だよ!?」
雅也 「声だけはな」
賢太郎 「逆に不自然だ」
玲美愛 「そんなことないし!」
その瞬間。
玲美愛の視線が、無意識に龍太郎の方へ向く。
葉山龍太郎は友達と笑っていた。
その笑顔を見た瞬間。
胸が、少しだけ熱くなる。
玲美愛 (……まただ)
放課後。
校庭。
二人三脚練習。
玲美愛 「龍太郎!もう一回!」
葉山龍太郎 「はいっす!」
スタート。
しかし。
玲美愛は集中できていなかった。
玲美愛 「わっ!」
またバランスを崩す。
葉山龍太郎 「危ないっす!」
支えられる。
その瞬間。
玲美愛の心臓が跳ねる。
玲美愛 (また……)
(なんでこんなにドキドキするの)
玲美愛 「ご、ごめん!」
葉山龍太郎 「大丈夫っすよ!」
いつも通りの優しい声。
なのに今日はそれが一番落ち着かない。
その夜。
玲美愛の部屋。
ベッドの上。
玲美愛 「はぁ……」
天井を見つめる。
玲美愛 「いやいやいやいや」
玲美愛 「違うし」
玲美愛 「これは違うし!」
必死に否定する。
だが。
頭に浮かぶのは龍太郎の顔ばかり。
笑顔。
声。
手を差し伸べた瞬間。
玲美愛 「……何これ」
初めての感情。
名前が分からない気持ち。
でも。
もう分かってしまっていた。
翌日。
朝。
教室。
真優 「玲美愛ちゃん」
玲美愛 「なに!?」
真優 「昨日よりさらに変」
玲美愛 「変じゃない!」
美優 「顔赤い」
玲美愛 「赤くない!」
雅也 「完全にアウトだな」
賢太郎 「自覚なしが一番厄介」
玲美愛 「うるさい!」
だが。
そのとき。
葉山龍太郎 「玲美愛さん、おはようっす!」
玲美愛 「っ……お、おはよう」
一瞬で声のトーンが変わる。
真優 「ほら」
美優 「ね」
玲美愛 「な、なにが?」
雅也 「分かりやすい」
賢太郎 「完全に恋だな」
玲美愛 「こ……」
玲美愛は固まる。
その単語だけは認めたくなかった。
昼休み。
玲美愛は屋上へ逃げていた。
玲美愛 「恋とかないし……」
玲美愛 「絶対違うし……」
だが。
さっきの龍太郎の笑顔が浮かぶ。
玲美愛 「……うるさいな」
胸がざわつく。
でも嫌じゃない。
むしろ少し嬉しい。
玲美愛 「……もう何これ」
そこへ。
ガチャッ。
葉山龍太郎 「ここにいたんすか」
玲美愛 「っ!?」
玲美愛 「なんで来るの!?」
葉山龍太郎 「探してました」
玲美愛 「な、なんで!」
葉山龍太郎 「今日の練習、心配で」
その一言で。
玲美愛の心臓がまた跳ねる。
玲美愛 (やばい)
(ほんとにやばいこれ)
玲美愛 「……大丈夫だし」
葉山龍太郎 「そうですか?」
玲美愛 「うん」
沈黙。
風が吹く。
葉山龍太郎 「じゃあ、また練習お願いします!」
玲美愛 「うん……」
龍太郎が去る。
その背中を見ながら。
玲美愛は小さく呟いた。
玲美愛 「……好き、なのかな」
初めて口にした言葉。
その瞬間。
顔が一気に真っ赤になる。
玲美愛 「ちがうちがうちがう!!」
屋上に叫び声が響いた。
その頃。
校庭。
真優 「玲美愛ちゃん、完全に落ちてるね」
美優 「うん」
真優 「恋ってすごいね」
美優 「……うん」
美優は少しだけ空を見上げる。
そして。
静かに呟いた。
美優 「みんな、変わっていくね」
真優 「うん」
真優はその言葉を聞いて、
自分の胸に手を当てた。
そこにもまた、
はっきりしない“何か”があった。
体育祭前。
恋は気付かないうちに、
もう戻れないところまで来ていた。
第52話 完




