第51話「はじめての“好き”」
体育祭練習が続く放課後。
校庭はいつもより騒がしい。
玲美愛 「龍太郎ー!もう一回いくよー!」
葉山龍太郎 「はいっす!」
二人三脚の練習。
何度も転びながら、それでも玲美愛は笑っていた。
玲美愛 「今のいい感じじゃない!?」
葉山龍太郎 「今の、僕ほぼ引っ張られてただけっすけどね」
玲美愛 「気にしない!」
葉山龍太郎 「気にするところです!」
雅也 「うるさいコンビだな」
賢太郎 「でも一番元気ある」
―――
少し離れたベンチ。
真優と美優が休憩していた。
真優 「玲美愛ちゃん、ずっと楽しそう」
美優 「うん」
真優 「龍太郎くん、いい人だね」
美優 「優しい」
そのときだった。
玲美愛が転んだ。
玲美愛 「きゃっ!」
葉山龍太郎 「大丈夫っすか!?」
すぐに手を差し伸べる龍太郎。
その瞬間。
玲美愛の胸が少しだけ跳ねた。
玲美愛 (……あれ?)
今まで何度もあった光景。
転ぶ。
助けられる。
それだけ。
なのに。
今日は違った。
―――
放課後。
帰り道。
玲美愛は一人だった。
いつもなら騒がしいはずなのに。
今日は少し静かだった。
玲美愛 「なんか変だなぁ……」
さっきのことが頭から離れない。
龍太郎の手。
真剣な顔。
いつもは気にしないはずの距離。
なのに。
胸が落ち着かない。
玲美愛 「いやいやいや!」
玲美愛 「ただの練習だし!」
そう言い聞かせる。
でも。
歩くたびに思い出してしまう。
―――
翌日。
校庭。
玲美愛 「龍太郎ー!」
葉山龍太郎 「おはようございます!」
玲美愛 「今日も練習!」
葉山龍太郎 「はいっす!」
いつも通りのやり取り。
なのに。
玲美愛は少しだけ意識していた。
(顔、近いな……)
(声、大きいな……)
(あれ、こんなに優しかったっけ)
全部、今までと同じ。
なのに全部違って見える。
―――
練習中。
玲美愛 「わっ!」
また転びそうになる。
その瞬間。
龍太郎が支える。
葉山龍太郎 「大丈夫っすか!?」
玲美愛 「あ……うん」
手が触れている。
ほんの一瞬。
なのに。
玲美愛の心臓が大きく跳ねた。
玲美愛 (なにこれ……)
(変だ……)
(なんか……ドキドキする)
―――
夕方。
練習終了後。
玲美愛はベンチに座っていた。
葉山龍太郎 「今日は結構良くなってましたね!」
玲美愛 「そ、そう?」
葉山龍太郎 「はい!」
いつもの笑顔。
いつもの明るさ。
なのに。
玲美愛は目を逸らしてしまった。
玲美愛 「……ねぇ」
葉山龍太郎 「はい?」
玲美愛 「龍太郎ってさ」
葉山龍太郎 「はい」
玲美愛 「……優しいよね」
葉山龍太郎 「え?普通っすよ」
玲美愛 「普通じゃないと思う」
葉山龍太郎 「そうっすか?」
玲美愛 「うん」
沈黙。
夕日が二人を照らす。
玲美愛は初めて気付いた。
(あれ)
(これってもしかして――)
その言葉はまだ口にできなかった。
でも確かに。
玲美愛の中に生まれてしまった。
“好きかもしれない”という気持ち。
―――
その頃。
遠くのベンチ。
真優 「玲美愛ちゃん、最近静かじゃない?」
美優 「うん」
真優 「龍太郎くんといるときだけ元気」
美優 「……」
美優は少しだけ目を細めた。
美優 「気付いたかも」
真優 「え?」
美優 「恋」
真優 「……うそ」
美優 「たぶん本当」
二人は同時に玲美愛を見る。
その背中はいつもより少しだけ小さく見えた。
そして。
また一つ。
一年二組の恋は増えてしまった。
第51話 完




