第50話「二人三脚、始動」
体育祭まで残り数日。
一年二組の教室は、すでにどこか“戦場前”の空気になっていた。
黒板には大きく書かれている。
二人三脚ペア
真衣 × 将規
真優 × 賢太郎
美優 × 雅也
玲美愛 × 葉山龍太郎
玲美愛 「よし、完璧なバランス!」
雅也 「どこがだ」
賢太郎 「一番不安なのはそこじゃないか」
葉山龍太郎 「よろしくっす!」
玲美愛 「元気な子きた!」
葉山龍太郎は運動部の男子。
明るくて人当たりがいい。
だが――
雅也 「お前、ちゃんと走れるよな?」
葉山龍太郎 「たぶん大丈夫っす!」
賢太郎 「たぶんはやめろ」
玲美愛 「勢いでいこう!」
―――
一方。
真衣は将規の隣を確保していた。
真衣 「じゃあ練習しよ」
将規 「やる気ありすぎだろ」
真衣 「勝つからね」
将規 「体育祭だぞ」
真衣 「でも勝ちたい」
真衣は笑いながら、紐を持ち上げる。
真衣 「ほら、こうやって」
将規 「近い」
真衣 「ペアだから」
将規 「そういう問題じゃない」
玲美愛 「距離ゼロだぁぁぁ!」
雅也 「うるさい」
賢太郎 「実況やめろ」
―――
真優と賢太郎。
美優と雅也。
それぞれも練習を始めていた。
真優 「こうかな?」
賢太郎 「足そろってる」
真優 「意外と難しいね」
賢太郎 「まぁな」
その少し離れた場所。
美優 「雅也くん、遅い」
雅也 「お前が速すぎる」
美優 「そう?」
雅也 「普通に走れ」
美優 「うん」
淡々とした会話。
だが妙に息は合っていた。
雅也 「意外といけるな」
美優 「うん」
―――
校庭。
本格練習。
玲美愛 「いくよ龍太郎!」
葉山龍太郎 「おっす!」
スタート。
しかし。
1歩目で――
玲美愛 「きゃっ!?」
葉山龍太郎 「うわっ!?」
見事に転倒。
雅也 「ほらな」
賢太郎 「予想通りだ」
玲美愛 「なんでぇぇぇ!?」
葉山龍太郎 「すみません!」
玲美愛 「気にしない!」
真衣 「元気だね」
将規 「怪我しないだけマシだな」
―――
その後。
真衣と将規のペア。
再スタート。
真衣 「せーの!」
将規 「おい待て」
真衣 「いくよ!」
ダッ。
いきなり全力。
将規 「速い!」
真衣 「もっと速く!」
将規 「無理だ!」
真衣 「昔はもっと速かったよ?」
将規 「昔の俺に頼るな!」
玲美愛 「青春だぁぁぁ!」
雅也 「うるさい」
賢太郎 「でも一番安定してるな」
確かに。
他よりも一番形になっていた。
―――
練習後。
夕方。
校庭のベンチ。
真優はタオルで汗を拭いていた。
賢太郎 「思ったよりできてたな」
真優 「うん、楽しいかも」
少しだけ笑う。
その少し離れた場所。
美優と雅也。
美優 「疲れた」
雅也 「普通に走っただけだろ」
美優 「うん」
雅也 「でも悪くないな」
美優 「そうかも」
短い会話。
でも、妙な安心感があった。
―――
そして。
校庭の端。
真衣と将規。
真衣 「ねえ将規」
将規 「ん?」
真衣 「こういうの、昔思い出すね」
将規 「覚えてない」
真衣 「嘘だ」
将規 「いや本当に」
真衣 「じゃあ思い出させる」
将規 「やめろ」
真衣は笑う。
その笑顔を見て。
将規は少しだけ考えていた。
(なんか……近いな)
真優。
美優。
真衣。
最近よく浮かぶ顔がある。
でもまだはっきりしない。
ただ一つ言えるのは――
この体育祭は、ただのイベントでは終わらないということ。
―――
夕日が沈む。
校庭に長い影。
四つのペアはそれぞれに練習を終えた。
それぞれ違う距離。
それぞれ違う温度。
でも確かに、
同じ目標へ向かって動き始めていた。
第50話 完




