第41話「双子だけの夜」
夏祭りの数日前。
夜。
真優と美優の部屋。
窓の外では虫の鳴き声が聞こえている。
エアコンの静かな音だけが部屋に響いていた。
真優 「暑いねー」
美優 「夏だから」
真優 「そのままの答えだ」
美優 「事実」
二人は同じ部屋で過ごしていた。
昔から変わらない。
双子だけの時間。
学校では友達といることが多くなった。
でもこうして夜になると、昔と同じように話をする。
真優 「なんかさ」
美優 「うん」
真優 「最近楽しいね」
美優 「うん」
真優 「文化祭もあったし」
美優 「誕生日も」
真優 「遊園地も」
美優 「海も」
真優 「思ったよりイベント多い」
美優 「確かに」
二人は笑った。
少し沈黙。
真優はベッドに寝転がる。
天井を見ながら呟いた。
真優 「高校入る前はさ」
美優 「うん」
真優 「こんなに友達できると思わなかった」
美優 「私も」
真優 「正直不安だったよね」
美優 「うん」
美優も静かに頷く。
新しい学校。
新しい環境。
知らない人ばかり。
不安がなかったわけではない。
真優 「でも玲美愛ちゃんいるし」
美優 「賑やか」
真優 「賑やかすぎる」
二人は吹き出した。
真優 「雅也くんは冷静だし」
美優 「賢太郎くんは優しい」
真優 「うん」
少し間。
真優 「将規くんも」
美優 「うん」
その瞬間。
なぜか少しだけ空気が変わった。
真優 「将規くんって優しいよね」
美優 「優しい」
真優 「自然に助けてくれるし」
美優 「見返り求めない」
真優 「それ」
美優 「うん」
再び静かな時間。
真優は横を向く。
真優 「美優」
美優 「うん」
真優 「将規くんといると落ち着かない時ある?」
美優 「……」
少しだけ驚いた顔。
真優 「変な意味じゃなくてね」
美優 「うん」
真優 「なんか最近」
真優は言葉を探す。
真優 「前より意識しちゃう時あるかも」
美優 「……そう」
真優自身も驚いていた。
口にしたのは初めてだった。
美優はしばらく黙っていた。
真優 「美優?」
美優 「私も」
真優 「え?」
美優 「少しだけ」
真優 「本当に?」
美優 「うん」
真優は思わず起き上がる。
真優 「ええ!?」
美優 「大きい声」
真優 「だって!」
美優は少しだけ笑った。
美優 「将規と話すと安心する」
真優 「うん」
美優 「でも時々」
真優 「うん」
美優 「少しだけ緊張する」
真優 「……」
今度は真優が黙る番だった。
二人とも同じだった。
今まで友達だと思っていた。
もちろん今も大切な友達だ。
でも。
それだけでは説明できない気持ちが生まれ始めている。
真優 「そっか」
美優 「うん」
真優 「同じなんだ」
美優 「双子だから?」
真優 「どうだろう」
二人は笑った。
だが。
胸の奥は少しだけ複雑だった。
真優 「もしさ」
美優 「うん」
真優 「本当に好きになったらどうする?」
美優 「……」
初めて出た言葉だった。
好き。
恋。
今まで避けてきた話題。
美優は静かに考える。
そして。
美優 「分からない」
真優 「私も」
美優 「でも」
真優 「?」
美優 「双子だからって譲ったりはしたくない」
真優 「!」
美優がこんなことを言うのは珍しかった。
美優 「真優もでしょ?」
真優 「……」
真優は少し考えた。
そして笑った。
真優 「うん」
美優 「うん」
真優 「譲らないかも」
美優 「うん」
二人の目が合う。
そして。
同時に笑った。
真優 「でもまだ分かんないよね」
美優 「うん」
真優 「今は友達」
美優 「友達」
真優 「それでいいか」
美優 「うん」
窓の外では夏の夜風が吹いていた。
双子だから分かることがある。
双子だからこそ分からないこともある。
でも一つだけ確かなことがあった。
二人にとって将規は特別な存在になり始めている。
そして。
まだ気付いていないのは――
当の本人だけだった。
静かな夜。
双子はいつものように「おやすみ」と言い合う。
けれど。
今夜だけは少しだけ眠れそうになかった。
第41話 完




