第29話「進路と夢」
兼次郎の講演会から数日後。
一年二組の教室。
朝。
玲美愛は机に突っ伏していた。
玲美愛 「分からない……」
雅也 「朝から何だ」
玲美愛 「将来」
雅也 「またか」
賢太郎 「今度は進路か」
真優 「悩んでるね」
美優 「うん」
玲美愛 「だって兼次郎さんがあんな話するから!」
将規 「人のせいにするな」
玲美愛 「だって考えちゃうじゃん!」
そこへ朝倉先生が教室へ入ってきた。
朝倉先生 「おはよう」
生徒達 「おはようございます」
朝倉先生 「今日は進路学習の時間がある」
玲美愛 「うわぁ……」
朝倉先生 「露骨に嫌そうな顔をするな」
教室が笑いに包まれる。
昼過ぎ。
進路学習の時間。
朝倉先生は黒板に大きく文字を書く。
『将来やってみたいこと』
朝倉先生 「決まっていなくてもいい」
静かな声だった。
朝倉先生 「興味があることでもいい」
真優 「……」
美優 「……」
将規 「……」
朝倉先生 「まずは考えることが大事だ」
玲美愛 「難しいです」
朝倉先生 「先生も高校一年の時は決まってなかった」
玲美愛 「本当ですか?」
朝倉先生 「ああ」
雅也 「意外だな」
朝倉先生 「意外とは何だ」
また笑いが起きる。
それぞれがワークシートを書き始めた。
真優はペンを動かす。
美優も静かに書いている。
将規はしばらく考えていた。
その時。
朝倉先生が近くに来た。
朝倉先生 「悩んでるな」
将規 「分かりますか」
朝倉先生 「顔に出てる」
将規 「玲美愛じゃないんですから」
朝倉先生 「確かにな」
二人は少し笑った。
朝倉先生 「焦る必要はない」
将規 「はい」
朝倉先生 「ただ、自分が何を大事にしたいかは考えておけ」
将規 「何を大事にしたいか……」
朝倉先生 「夢が先に見つかる人もいる」
朝倉先生 「大切な人が先に見つかる人もいる」
将規 「……」
その言葉が少しだけ胸に残った。
放課後。
教室には六人が残っていた。
玲美愛 「みんな何書いた?」
雅也 「言わない」
賢太郎 「俺も」
玲美愛 「ケチ!」
真優 「私は少しだけ」
美優 「決まってない」
将規 「俺もそんな感じ」
玲美愛 「仲間!」
雅也 「増やそうとするな」
玲美愛 「だって安心する!」
真優 「玲美愛ちゃんらしい」
その時。
美優がぽつりと呟いた。
美優 「でも」
全員が見る。
美優 「少しだけある」
玲美愛 「え?」
美優 「誰かを支える仕事」
真優 「美優……」
雅也 「似合いそうだな」
賢太郎 「分かる」
玲美愛 「絶対優しい」
美優は少し照れたように目を逸らした。
今度は真優が話し始める。
真優 「私は人と関わる仕事かな」
玲美愛 「真優ちゃんっぽい!」
雅也 「確かに」
将規も自然に頷いていた。
真優は誰とでも話せる。
誰かを元気にできる。
そんな力を持っている。
玲美愛 「将規くんは?」
将規 「俺?」
玲美愛 「うん」
将規 「まだ分からない」
玲美愛 「本当に?」
将規 「ああ」
朝倉先生の言葉を思い出す。
――大切な人が先に見つかる人もいる。
将規 (大切な人、か……)
ふと視線の先に双子がいた。
真優が笑っている。
美優も穏やかに微笑んでいる。
将規は慌てて視線を逸らした。
玲美愛 「怪しい」
将規 「何がだ」
玲美愛 「今なんか考えてた!」
雅也 「放っておけ」
賢太郎 「また始まるぞ」
真優 「ふふっ」
美優 「うん」
夕方。
六人はいつものように帰り道を歩く。
将来の夢。
進路。
やりたいこと。
まだ答えは見つからない。
でも。
考えることは悪くない。
そう思えた。
そして将規の中には、
進路とは別の答えを探す気持ちも少しずつ大きくなっていた。
それはまだ誰にも言えない想い。
けれど確実に、
彼の中で育ち始めていた。
夕焼けの空の下。
六人の影はゆっくりと伸びていく。
それぞれの未来へ向かうように――。
第29話 完




