第17話「静かな双子の距離」
放課後。
一年二組の教室は、いつもより静かだった。
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すでにほとんどの生徒が帰っている。
残っているのは数人だけ。
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その中で。
窓際の席に並んで座る二人。
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真優と美優。
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真優
「今日の数学、ちょっと難しかったね」
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美優
「うん」
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いつも通りの短い返事。
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けれど、その間には不思議な落ち着きがあった。
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真優はペンをくるくる回しながら言う。
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真優
「最近さ」
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美優
「うん」
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真優
「なんか……クラス、変わってきたよね」
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美優
「うん」
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真優
「みんな頑張ってるし」
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「玲美愛ちゃんもすごく前向きになったし」
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美優
「うん」
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少し間。
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真優
「でもさ」
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美優
「?」
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真優
「私たちって、あんまり変わってない気がする」
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美優は少しだけ目を伏せる。
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美優
「そうかな」
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真優
「ほら」
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「80点は取ったけど」
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「それ以上って感じじゃないし」
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真優は笑う。
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でもその笑いは少しだけ弱かった。
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その時。
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ガラッ。
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教室のドアが開く。
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玲美愛
「まだいたー!」
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雅也
「やっぱりな」
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将規
「双子は残りがちだな」
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真優
「なんで来たの」
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玲美愛
「迎え!」
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美優
「迎え?」
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玲美愛
「一緒に帰ろ!」
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真優は少し驚く。
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真優
「珍しいね」
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玲美愛
「たまにはね!」
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そのまま四人で校舎を出る。
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夕方の風が少し涼しい。
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帰り道。
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玲美愛
「ねえ真優ちゃん」
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真優
「うん?」
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玲美愛
「最近どう?」
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真優
「どうって?」
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玲美愛
「そのまま」
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真優は少し考える。
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真優
「……普通かな」
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玲美愛
「普通かぁ」
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その横で美優がぽつりと言う。
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美優
「普通、いいと思う」
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全員が少し驚く。
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真優
「え?」
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美優
「普通って、安心する」
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その言葉に真優は少し黙る。
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玲美愛
「確かに」
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雅也
「落ち着くってことか」
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将規
「それは強みだな」
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真優
「……そっか」
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美優
「うん」
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短い会話。
けれど、それで十分だった。
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翌日。
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昼休み。
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真優は教室の隅で問題集を開いていた。
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美優も隣にいる。
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真優
「ねえ」
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美優
「うん」
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真優
「私たちさ」
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「特徴ないって思ってたけど」
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美優
「うん」
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真優
「“落ち着く”って言われるの」
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「ちょっと悪くないかも」
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美優
「うん」
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その時。
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後ろから声。
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賢太郎
「いいと思う」
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二人
「え?」
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賢太郎は少しだけ照れたように立っていた。
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賢太郎
「そういうのってさ」
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「誰にでもできることじゃない」
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真優
「そうかな」
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賢太郎
「ああ」
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「安心できる人がいるって、結構大事だと思う」
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美優は静かに頷く。
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美優
「ありがとう」
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真優は少しだけ笑う。
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真優
「じゃあ……私たちも役に立ってるのかな」
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賢太郎
「十分なってると思う」
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その言葉に。
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真優の胸の奥が少しだけ温かくなる。
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放課後。
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帰り道。
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真優
「ねえ、美優」
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美優
「うん」
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真優
「私たちってさ」
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少し笑う。
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真優
「意外といいコンビかもね」
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美優
「うん」
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それだけで会話は終わった。
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でも。
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二人は同時に少しだけ笑っていた。
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自分たちは派手じゃない。
目立つわけでもない。
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それでも。
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誰かの安心になれるなら。
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それは十分すごいことだと知ったから。
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夕焼けの中。
双子は並んで歩く。
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少しだけ前より、
歩幅がそろっていた。
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第17話 完




