第8話「特進クラス、卒業生の進路指導」
入学から数週間。
一年二組にも少しずつ高校生活のリズムができ始めていた。
そんなある日の朝。
朝倉先生が教室へ入ってくるなり、一枚のプリントを掲げた。
「今日は午後から特別授業を行います」
教室がざわつく。
玲美愛が真っ先に反応した。
「特別授業!?」
雅也が嫌な予感しかしない顔をする。
「どうせまたあの人たち絡みだろ」
将規も頷く。
「俺もそう思う」
朝倉先生が苦笑する。
「鋭いね」
そして黒板に大きく書いた。
『特進クラス・卒業生進路指導会』
教室。
「やっぱりか!!」
大合唱だった。
真衣は机に突っ伏した。
「もう慣れたくない……」
賢太郎もため息を吐く。
「絶対兄貴来るだろ」
「来ると思う」
「来るな」
「無理だと思う」
昼休みが終わる。
一年生の特進クラスと希望者が視聴覚室へ集められた。
広い教室。
前方には長机が並べられている。
そこに座っていたのは――
兼次郎。
瑠姫愛。
龍也。
大将。
結衣。
玲緒菜。
一将。
見慣れた顔ぶれだった。
会場がざわつく。
「本物だ……」
「また来てる……」
「オーラやばい」
「卒業生なのに存在感すごい」
学年主任がマイクを持つ。
「静かに」
すぐに会場が静まった。
学年主任は卒業生たちを見ながら言う。
「今日は進路について話してもらう」
「将来を考えるきっかけにしてほしい」
そして最初に立ち上がったのは兼次郎だった。
「兼次郎です」
それだけで空気が引き締まる。
「法学部卒業後、現在は弁護士をしています」
一年生たちがざわつく。
真衣も思わず姿勢を正した。
兼次郎は続ける。
「法律は人を縛るためだけのものじゃない」
「人を守るためにある」
静かな声。
しかし不思議と耳に入る。
「だから法学部へ行きたい人は、『何を守りたいか』を考えてほしい」
その言葉に賢太郎は少し考え込む。
次に立ったのは瑠姫愛。
「私は検察官です」
会場がさらにざわつく。
「検察官って怖いイメージある?」
数人が頷く。
瑠姫愛は笑った。
「まあ否定はしない」
会場が笑いに包まれる。
「でも正義感だけじゃ続かない仕事だよ」
「冷静さも必要」
その言葉に皆真剣に聞き入る。
続いて龍也。
「同じく法学部出身」
「今は弁護士」
短い。
非常に短い。
学年主任が苦笑する。
「もう少し話せ」
龍也。
「嫌です」
会場大爆笑。
次は大将。
「法学部は勉強量が多い」
会場が静まる。
「本当に多い」
さらに静まる。
「覚悟して来い」
その一言に法学部志望者たちの顔が引きつった。
そして後半。
教育学部組。
結衣が前へ出る。
「保育士をしています」
真衣が少し誇らしい気持ちになる。
「子どもが好きだけじゃ続かない」
「でも好きじゃないと始まらない」
優しい声だった。
玲緒菜も続く。
「小学校教師です」
玲美菜が少し驚く。
「教師って毎日大変です」
「でも子どもの成長を見るのは楽しい」
会場が静かに聞き入る。
最後に一将。
「高校教師です」
将規が小さく吹き出した。
「兄貴が先生……」
一将が聞き逃さなかった。
「何か言ったか」
将規。
「何も言ってません」
即答だった。
会場はまた笑いに包まれる。
進路指導会終了後。
一年二組は教室へ戻る。
玲美愛が大きく伸びをした。
「なんかすごかったね」
雅也も頷く。
「思ったより真面目だった」
将規。
「兄貴たち普通にすごい人だった」
真優。
「知ってた」
美優。
「今さら」
真衣は窓の外を見る。
少し前まで。
兄姉たちは「伝説世代」としか思っていなかった。
でも今日。
少しだけ違った。
伝説じゃない。
ちゃんと努力して、自分の道を歩いてきた人たちだった。
賢太郎も同じことを考えていたらしい。
「兄貴も色々やってたんだな」
真衣が笑う。
「私たちも頑張らないとね」
賢太郎も小さく笑った。
「だな」
高校生活はまだ始まったばかり。
だが。
将来へ続く道は、少しずつ見え始めていた。
第8話 完




