第7話「伝説世代の弟妹」
翌日。
一年二組の教室は朝から落ち着かなかった。
昨日、学年主任によって真衣たちの正体が明らかになったからだ。
「伝説世代の弟妹」
その言葉はあっという間に一年生の間へ広がっていた。
玲美愛は机に突っ伏しながら大きなため息をつく。
「もう無理……」
雅也が苦笑する。
「何回目だ、それ」
「五十回目くらい」
「数えてたのかよ」
すると教室の入り口から声が聞こえた。
「ねえねえ!」
見知らぬ女子生徒が数人やって来る。
その後ろには男子生徒もいた。
全員の視線が真衣たちへ向いている。
真衣は嫌な予感しかしなかった。
「何でしょうか……」
女子生徒が目を輝かせる。
「本当に結衣さんの妹なの!?」
真衣 「はい……」
「やっぱり!」
別の生徒が今度は賢太郎を見る。
「兼次郎さんの弟って本当?」
賢太郎 「本当です」
「うわぁ!」
なぜか歓声が上がる。
賢太郎は意味が分からなかった。
さらに質問が飛ぶ。
「玲美愛さんは瑠姫愛さんの妹?」
「はい!」
「玲美菜さんは玲緒菜さんの妹?」
「そうですけど……」
「雅也くんは龍也さんの弟!?」
「そうらしいです」
「そうらしいって何だよ!」
教室中が笑う。
しかし質問攻めは終わらない。
「兼次郎さんって本当にすごい人なの?」
「結衣さんって優しい?」
「雷斗さんって怖い?」
「一将さんって先生になったの?」
「玲緒菜さんってどんな人?」
次から次へと飛んでくる。
真優が机に突っ伏した。
「疲れた」
美優も同じように突っ伏す。
「疲れた」
将規がため息を吐く。
「俺たち本人じゃないんだけどな」
その言葉に全員が頷いた。
昼休み。
ようやく静かになったと思った矢先。
今度は二年生が教室へやって来た。
「一年二組ってここ?」
「そうですけど」
「いたいた」
そして。
「兼次郎さんの弟!」
賢太郎 「またですか」
「結衣さんの妹!」
真衣 「またです」
「瑠姫愛さんの妹!」
玲美愛 「またです!」
教室が爆笑する。
完全に有名人扱いだった。
放課後。
真衣たちは疲れ切っていた。
玲美愛 「今日一日で百回くらい聞かれた気がする」
雅也 「絶対百回は聞かれてない」
将規 「でも近い」
真優 「疲れた」
美優 「疲れた」
賢太郎は窓の外を見る。
「兄貴たち、どれだけ有名だったんだよ」
真衣も苦笑する。
「本当にね」
その時だった。
教室の扉が開く。
入ってきたのは朝倉先生だった。
先生は教室を見渡すと、すぐに状況を察したらしい。
「質問攻め?」
全員。
「はい……」
朝倉先生は少し笑う。
「人気者は大変だね」
真衣は即座に否定する。
「人気者じゃありません!」
「じゃあ何?」
真衣は少し考える。
そして。
「兄姉のおまけです」
教室が静かになる。
朝倉先生は少しだけ優しい顔をした。
「違うと思うけどな」
真衣 「え?」
「最初はそう見られるかもしれない」
先生はゆっくり続ける。
「でも人は案外ちゃんと見てる」
「真衣は真衣」
「賢太郎は賢太郎」
「玲美愛は玲美愛」
「そのうち皆そう呼ぶようになるよ」
教室が静かになる。
賢太郎は少しだけ笑った。
「だといいですね」
朝倉先生も笑う。
「なるよ」
窓の外では夕日が校舎を照らしていた。
伝説世代の弟妹。
そう呼ばれる日々は始まったばかりだ。
けれど。
彼らは少しずつ、自分たち自身の名前で見られるようになっていく。
そんな予感がしていた。
第7話 完




