第2話「卒業生代表」
三月。
中学校の体育館には、静かな緊張感が流れていた。
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壇上には校章。
並べられた椅子。
後ろには「卒業証書授与式」の文字。
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在校生、保護者、教師たち。
いつも騒がしい体育館なのに、今日は空気が違う。
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真衣は深く息を吐いた。
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真衣 「……無理」
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隣の賢太郎が小さく笑う。
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賢太郎 「今日それ何回目?」
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真衣 「百回くらい」
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今日は卒業式。
そして。
卒業生代表は、真衣と賢太郎だった。
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式開始前。
廊下。
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玲美愛 「代表とかすごくない!?」
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雅也 「普通に緊張するやつだろ」
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玲美菜 「真衣、顔白い」
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将規 「倒れるなよ」
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真優 「壇上で気絶したら伝説」
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美優 「それは見たい」
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真衣 「最低」
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でも、そのやり取りのおかげで少し肩の力が抜ける。
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担任が二人の前に立つ。
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担任 「大丈夫そうか?」
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真衣 「全然」
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賢太郎 「まあなんとか」
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担任は少し笑う。
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担任 「お前らなら平気だよ」
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短い言葉。
でも、不思議と落ち着いた。
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式が始まる。
国歌。
校歌。
卒業証書授与。
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名前が呼ばれるたびに、三年間の景色が少しずつ浮かぶ。
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教室。
テスト。
部活帰り。
進路で悩んだ日。
みんなで笑った昼休み。
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“終わる”
その実感が、ゆっくり近づいてくる。
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そして。
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「卒業生代表、答辞」
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体育館が静かになる。
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真衣 「……っ」
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賢太郎が小さく前を見る。
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賢太郎 「行こう」
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真衣は小さく頷く。
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二人で壇上へ上がる。
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視線が集まる。
足が少し震える。
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でも。
逃げたくはなかった。
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賢太郎が先に答辞を読む。
落ち着いた声。
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「私たちは、この三年間で――」
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静かな体育館に声が響く。
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その横で、真衣は原稿を握りしめる。
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次は自分。
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怖い。
でも。
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“ちゃんと伝えたい”
その気持ちの方が、少しだけ強かった。
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真衣 「……私たちは」
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最初、少し声が震える。
でも。
途中から、不思議と落ち着いていった。
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「悩んで、迷って、それでも前に進もうとしてきました」
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保護者席。
結衣が静かに聞いている。
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「一人では不安だったことも」
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「隣に誰かがいたから、乗り越えられました」
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真衣は少しだけ横を見る。
賢太郎が静かに立っている。
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「これから先、別々の道を選ぶ人もいます」
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「それでも、この三年間で出会えたことは、きっと私たちの支えになります」
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言葉を読みながら。
真衣は、自分自身にも言い聞かせている気がした。
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「今まで、本当にありがとうございました」
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深く礼をする。
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静寂。
そして次の瞬間、大きな拍手が響いた。
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壇上を降りたあと。
真衣は一気に息を吐く。
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真衣 「終わったぁ……」
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賢太郎 「お疲れ」
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真衣 「足まだ震えてる」
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賢太郎 「俺も」
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真衣 「うそだ」
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賢太郎 「ちょっとだけ」
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少し笑う。
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式終了後。
教室。
最後のホームルーム。
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担任 「卒業、おめでとう」
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その言葉だけで、急に涙腺が危なくなる。
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周りでも泣き始める人がいた。
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玲美愛 「無理、泣く」
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雅也 「早い」
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玲美菜 「将規も泣きそう」
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将規 「泣いてない」
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真優 「目赤い」
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将規 「違う」
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教室に笑いが広がる。
でも、その笑いも少し泣きそうだった。
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校門前。
卒業生たちが写真を撮っている。
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真衣は卒業証書を抱えながら空を見る。
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終わった。
中学生が。
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でも。
終わりというより、“始まり”の方が近かった。




