第100話「受験の日」
二月。
まだ朝の空気は冷たい。
吐く息が白い。
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駅前には、同じ制服姿の中学生たちが集まっていた。
参考書を開く人。
無言で立つ人。
親と話している人。
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その空気だけで、“今日”の重さが分かる。
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真衣はマフラーを少し握り直した。
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真衣 「……無理かも」
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隣を歩く賢太郎がすぐ返す。
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賢太郎 「朝からそれ?」
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真衣 「だって受験だよ?」
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賢太郎 「知ってる」
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真衣は小さく息を吐く。
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緊張で胃が変な感じだった。
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電車。
二人並んで立ちながら、ほとんど会話はない。
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でも、その静けさが嫌じゃなかった。
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賢太郎 「眠れた?」
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真衣 「三回起きた」
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賢太郎 「俺二回」
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真衣 「勝った」
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賢太郎 「何の勝負」
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少しだけ笑う。
そのやり取りだけで、少し呼吸が楽になる。
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受験会場。
結衣たちの母校。
今日は受験生で溢れていた。
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校門前。
先生たちが案内をしている。
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真衣 「人多……」
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賢太郎 「毎年こんな感じらしい」
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真衣は校舎を見上げる。
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ここを目指した。
自分で決めた。
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そう思うと、少しだけ背筋が伸びた。
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そのとき。
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「真衣ちゃん!?」
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聞き覚えのある声。
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振り向くと、玲美愛が手を振っていた。
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玲美愛 「ほんとに同じとこ受けるんだ!」
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その隣には雅也。
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雅也 「朝から元気だな……」
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真衣 「玲美愛ちゃんたちも?」
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玲美愛 「うん!法学コース狙い!」
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雅也 「俺も」
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相変わらず落ち着いている。
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さらに後ろから声。
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玲美菜 「真衣ー!」
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将規と並んで歩いてくる。
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将規 「知り合い多すぎない?」
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真衣 「それは思った」
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玲美菜 「緊張してたけどちょっと安心した」
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将規 「俺はまだ普通に緊張してる」
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真衣 「分かる」
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そこへさらに二人組。
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麗美 「……人多い」
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雷斗の妹、麗美。
その後ろには、大将の双子の妹たち。
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真優 「うわ、本当に集まってる」
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美優 「同窓会?」
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真衣 「受験会場」
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少し笑いが起きる。
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最後に、小走りで駆けてくる二人。
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美優紀 「間に合ったー!!」
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優人 「お前が寝坊しかけたからだろ……」
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茉優の双子の妹弟。
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賢太郎 「全員集合じゃん」
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真衣 「なんでこうなるの」
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でも。
その空気に、少しだけ救われる。
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校門前。
それぞれ受験票を確認しながら、少し静かになる。
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今日は遊びじゃない。
ここから先は、本当に未来へ繋がっている。
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玲美愛 「……頑張ろうね」
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雅也 「うん」
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将規 「終わったら絶対疲れる」
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真優 「もう疲れてる」
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美優 「まだ始まってない」
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少し笑いが起きる。
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そのとき。
賢太郎が真衣を見る。
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賢太郎 「大丈夫?」
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真衣は少しだけ深呼吸する。
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真衣 「……まだ怖い」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「でも」
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真衣は周りを見る。
みんな緊張している。
みんな未来へ向かっている。
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真衣 「一人じゃないから、少し平気」
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賢太郎は小さく笑った。
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開始時間が近づく。
先生の案内が響く。
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「受験生は校舎内へ移動してください」
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真衣は受験票を握り直す。
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不安は消えていない。
でも。
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ここまで来た。
自分で選んで、ここへ来た。
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真衣 「……行こう」
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賢太郎 「うん」
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春へ続く一日が、静かに始まった。




