第97話「自分で決めた場所」
十月。
放課後の教室は、いつもより静かだった。
廊下から聞こえるのは、三者面談を待つ保護者たちの声。
☆
真衣は進路希望調査票を握ったまま、小さく息を吐く。
☆
第一志望。
そこには、結衣の母校の名前が書かれていた。
何度も消して、何度も書き直した文字。
でも最後に残ったのは、やっぱりその名前だった。
☆
教室。
担任が資料を見ながら頷く。
☆
担任 「第一志望、公立○○高校か」
☆
真衣 「はい」
☆
隣には母。
そして少し遅れて、結衣も来ていた。
☆
担任 「理由、聞いてもいいか?」
☆
真衣は少しだけ緊張する。
でも、逃げたくなかった。
☆
真衣 「最初は……姉が通ってたから気になってました」
☆
結衣が少しだけ目を丸くする。
☆
真衣 「でも、それだけじゃなくて」
☆
真衣は調査票を見る。
☆
真衣 「文化祭とか、授業体験とか行って」
☆
真衣 「自分に合ってる気がしました」
☆
担任は静かに聞いている。
☆
真衣 「教育系の進路も強いし」
☆
真衣 「ちゃんと勉強したいって思えたので」
☆
その言葉は、前よりずっと自然に出た。
☆
担任は小さく頷く。
☆
担任 「いいと思う」
☆
真衣 「……え?」
☆
担任 「ちゃんと“自分の言葉”で話せてる」
☆
真衣は少しだけ息を止める。
☆
担任 「誰かに流された感じじゃない」
☆
その一言が、胸に残る。
☆
面談後。
廊下。
☆
真衣 「……疲れた」
☆
結衣 「顔固すぎだったけどね」
☆
真衣 「無理」
☆
結衣は少し笑う。
☆
結衣 「でも、ちゃんと自分で決めた顔してた」
☆
真衣は少しだけ黙る。
☆
真衣 「……そうかな」
☆
結衣 「うん」
☆
帰り道。
夕方の風は少し冷たい。
☆
真衣はスマホを取り出す。
送信先は賢太郎。
☆
『進路決めた』
すぐ既読。
『どこ?』
☆
真衣は少しだけ立ち止まる。
そして打つ。
☆
『お姉ちゃんの高校』
☆
数秒後。
『そっか』
『真衣が決めたなら、それが一番いいと思う』
☆
真衣は画面を見たまま、小さく息を吐く。
☆
少し前の自分なら、 その返事に寂しさを感じていたかもしれない。
でも今は違う。
☆
“自分で決めた”
その実感が、ちゃんとあった。
☆
夜。
自室。
机の上には高校案内と参考書。
☆
真衣はベッドに座りながら、今日のことを思い返す。
☆
賢太郎と同じ道じゃないかもしれない。
でも。
☆
それでも、自分で選んだ場所へ行きたいと思った。
☆
真衣 「……これでいいんだ」
☆
小さく呟く。
☆
未来はまだ不安だ。
でも。
今日の選択だけは、ちゃんと自分のものだった。




