第95話「同じ景色」
八月の終わり。
夏休みは、気づけばあと少しになっていた。
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真衣は机に向かいながら、大きくため息をつく。
課題はまだ半分。
窓の外では蝉が最後みたいに鳴いている。
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真衣 「終わる気しない……」
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スマホが震える。
賢太郎。
『課題進んでる?』
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真衣 「なんで今それ送るの……」
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少し迷ってから返す。
『終わってない』
すぐ返信。
『俺も』
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真衣は少しだけ笑う。
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『図書館来る?』
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午後。
市立図書館。
冷房の静かな空気と、ページをめくる音。
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真衣は参考書を開いたまま固まっていた。
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賢太郎 「止まってる」
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真衣 「数学が敵」
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賢太郎 「そこ?」
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真衣 「全部敵」
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賢太郎は小さく笑う。
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向かい合わせの席。
最初はちゃんと勉強していた。
でも一時間後には、半分くらい雑談になっている。
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真衣 「高校入ったら課題もっと増えるのかな」
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賢太郎 「増えるだろ」
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真衣 「最悪」
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賢太郎 「でも真衣、ちゃんとやるタイプじゃん」
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真衣 「やってる風でギリギリ生きてるだけ」
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賢太郎 「それは分かる」
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真衣 「分かるな」
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少し静かになる。
図書館の窓から、夕方の光が差し込んでいた。
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賢太郎 「ねぇ」
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真衣 「うん」
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賢太郎 「最近さ」
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真衣はペンを止める。
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賢太郎 「前より普通に話せるようになったよね」
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真衣 「……前が変だっただけ」
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賢太郎 「それもある」
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真衣は少しだけ笑う。
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賢太郎はノートに目を落としたまま続ける。
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賢太郎 「でも、ちゃんと考えてくれてるの分かるから」
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真衣 「……うん」
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賢太郎 「だから焦らなくなった」
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真衣は少しだけ目を丸くする。
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真衣 「焦ってたんだ」
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賢太郎 「そりゃする」
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真衣 「意外」
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賢太郎 「真衣、急に距離取る時あるし」
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真衣 「それは……ごめん」
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賢太郎 「責めてない」
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真衣は窓の外を見る。
夕焼けが少しずつ濃くなっていた。
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真衣 「でもさ」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「最近、前より怖くない」
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賢太郎 「何が?」
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真衣 「一緒にいるの」
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その言葉に、賢太郎が少しだけ動きを止める。
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真衣 「前は、“変わる”感じが怖かった」
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真衣 「でも今は、変わってもいいかもって少し思う」
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静かな空気。
図書館だからじゃない。
その言葉をちゃんと聞いている空気だった。
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賢太郎 「……そっか」
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真衣 「うん」
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賢太郎は少しだけ笑う。
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賢太郎 「じゃあ、もう少し一緒にいる?」
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真衣 「課題終わるなら」
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賢太郎 「それは無理」
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真衣 「解散で」
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二人とも小さく笑う。
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帰り道。
空はほとんど夜になっていた。
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歩きながら、真衣は思う。
前は、“同じ高校”という言葉だけが先にあった。
でも今は違う。
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“同じ景色を見たい”
そんな気持ちが、少しずつ生まれていた。
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まだ答えにはなっていない。
でも。
その答えに近づいている気はしていた。




