第94話「少し先の話」
夏祭りの翌日。
朝なのに、まだ昨日の余韻が残っていた。
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真衣はベッドの上でスマホを見つめている。
写真フォルダ。
屋台。花火。川沿い。
そして最後に、賢太郎が撮った二人の後ろ姿。
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真衣 「……なんで後ろ姿なの」
小さく呟く。
でも、嫌じゃなかった。
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そのとき。
スマホが震える。
賢太郎。
『昨日ありがと』
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真衣は少し考えてから返す。
『こちらこそ』
送ってすぐ、また通知。
『髪飾り、ちゃんと付いてた?』
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真衣は思わず笑う。
『付いてる』
『よかった』
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短いやり取り。
でも、その短さが逆に落ち着く。
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昼。
結衣が洗濯物を畳みながら真衣を見る。
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結衣 「楽しかった?」
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真衣 「……まあ」
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結衣 「その顔は楽しかった顔」
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真衣 「うるさい」
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結衣は少しだけ笑う。
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結衣 「前より自然だった?」
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真衣は一瞬止まる。
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真衣 「……うん」
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結衣 「そっか」
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それ以上は聞かない。
その距離感がありがたい。
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夕方。
真衣は近所のコンビニへ向かって歩いていた。
夏の空はまだ明るい。
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途中で、見慣れた姿が目に入る。
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賢太郎 「あ」
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真衣 「……なんでいるの」
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賢太郎 「コンビニ」
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真衣 「私も」
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少し沈黙。
でも、前みたいなぎこちなさは薄れている。
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賢太郎 「アイス買う?」
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真衣 「子供扱い?」
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賢太郎 「半分くらい」
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真衣 「失礼」
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結局、二人でアイスを買って公園へ向かう。
ブランコは空いていた。
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真衣 「夏休みって感じ」
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賢太郎 「うん」
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真衣はアイスを食べながら空を見る。
少しオレンジ色になり始めている。
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賢太郎 「ねぇ」
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真衣 「うん?」
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賢太郎 「高校入ったらさ」
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真衣は少しだけ緊張する。
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賢太郎 「ちゃんと青春しよう」
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真衣 「……またそれ言う」
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賢太郎 「だってしたいし」
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真衣は少し笑う。
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真衣 「青春って具体的に何」
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賢太郎 「放課後寄り道するとか」
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真衣 「普通」
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賢太郎 「文化祭回るとか」
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真衣 「普通」
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賢太郎 「帰り道一緒に帰るとか」
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真衣は少しだけ黙る。
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賢太郎 「……それは?」
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真衣 「ちょっとズルい」
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賢太郎が笑う。
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風が吹く。
公園の木が揺れる。
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真衣 「でもさ」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「少しだけなら、想像できるようになったかも」
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賢太郎 「何を?」
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真衣 「高校生活」
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真衣 「前は不安の方が大きかったけど」
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真衣 「今は、“こうだったらいいな”も少しある」
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賢太郎は静かに聞いている。
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真衣 「……たぶん、賢太郎のせい」
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賢太郎 「責任重大だな」
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真衣 「ほんとにね」
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帰る頃には、空はかなり暗くなっていた。
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真衣は歩きながら思う。
“まだ決めきれてはいない”
でも。
“少し先を想像できる”
それは前よりずっと大きな変化だった。
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未来はまだ曖昧だ。
でも、その曖昧さの中に、少しだけ楽しみが混ざり始めていた。




