第93話「花火のあと」
花火が終わったあとの空は、少しだけ静かだった。
さっきまで響いていた音が消えて、代わりに夜風だけが残る。
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祭り帰りの人たちが駅へ流れていく。
真衣と賢太郎も、その流れの中をゆっくり歩いていた。
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真衣 「……終わっちゃったね」
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賢太郎 「うん」
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短い返事。
でも、その“うん”には少しだけ名残惜しさが混ざっている。
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駅までの道。
屋台の灯りが一つずつ消え始めていた。
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真衣 「なんかさ」
賢太郎 「うん」
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真衣 「今日、思ったより普通だった」
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賢太郎は少しだけ笑う。
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賢太郎 「どういう意味?」
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真衣 「もっと気まずくなると思ってた」
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賢太郎 「それはちょっと傷つく」
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真衣 「ごめん」
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でも、二人とも少し笑っている。
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改札前。
人の流れが少しだけ混雑している。
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真衣 「あ」
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賢太郎 「どうした?」
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真衣 「髪飾り……」
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浴衣につけていた小さな飾りが無い。
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真衣 「どこで落としたんだろ」
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賢太郎 「さっきの川沿いかな」
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真衣 「えぇ……」
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少し困ったように眉を寄せる真衣を見て、賢太郎はすぐ言う。
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賢太郎 「戻る?」
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真衣 「でももう遅いし」
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賢太郎 「まだ少しなら大丈夫」
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真衣は少しだけ迷う。
でも、小さく頷いた。
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川沿い。
さっきより人が減っている。
花火の熱だけが、まだ少し空気に残っていた。
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二人で足元を探す。
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真衣 「あったら奇跡じゃない?」
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賢太郎 「言うな」
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真衣 「ごめん」
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少し笑う。
その空気が、さっきより自然だった。
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数分後。
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賢太郎 「……あ」
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真衣 「え?」
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賢太郎の手の中。
小さな髪飾り。
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真衣 「うそ」
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賢太郎 「あった」
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真衣は思わず笑う。
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真衣 「すご」
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賢太郎 「奇跡だったな」
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真衣 「さっき私が言ったやつ」
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賢太郎 「ちゃんと回収した」
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真衣は髪飾りを受け取る。
その瞬間、指先が少しだけ触れる。
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ほんの一瞬。
でも前みたいな“怖さ”は少なかった。
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真衣 「……ありがと」
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賢太郎 「うん」
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静かな時間。
川の水音だけが聞こえる。
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真衣 「ねぇ」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「今日さ」
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真衣 「楽しかった」
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賢太郎は少しだけ驚いた顔をする。
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真衣 「なにその顔」
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賢太郎 「いや、ちゃんと言うんだなって」
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真衣 「失礼」
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賢太郎は少し笑う。
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賢太郎 「俺も楽しかった」
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少し風が吹く。
浴衣の袖が揺れる。
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真衣は空を見上げる。
花火はもう終わっている。
でも、さっきまでの光がまだ残っている気がした。
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真衣 「なんか変だね」
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賢太郎 「何が?」
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真衣 「前より、ちゃんと隣にいる感じする」
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賢太郎は少しだけ黙る。
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賢太郎 「……うん」
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その返事だけで十分だった。
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帰りの電車。
窓に映る自分の顔を見ながら、真衣は小さく息を吐く。
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“まだ答えは出てない”
それは本当。
でも。
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“この時間を続けたい”
その気持ちは、前よりずっとはっきりしていた。




