第91話「夏祭りの約束」
八月。
街は完全に夏の色になっていた。
蝉の声。強い日差し。夕方になっても残る熱気。
真衣は自室の床に寝転びながら、スマホを見つめていた。
通知欄には、グループメッセージ。
『今年の夏祭りどうする?』
送信者は龍也。
☆
真衣 「……夏祭りか」
小さく呟く。
去年までは、ただ友達と行くイベントだった。
でも今年は少し違う。
☆
そのとき、スマホが震える。
賢太郎。
『夏祭り、行く?』
☆
真衣は画面を見たまま止まる。
少し考えてから返す。
『行くと思う』
数秒後。
『一緒に回る?』
☆
真衣 「うわ……」
顔を伏せる。
心臓が少しだけうるさい。
☆
リビング。
結衣は飲み物を飲みながらスマホを見ていた。
真衣が降りてくる。
☆
結衣 「なんかあった顔」
真衣 「最近そればっか」
結衣 「当たってるし」
☆
真衣はソファに座る。
☆
真衣 「夏祭り誘われた」
結衣 「賢太郎くん?」
真衣 「うん」
☆
結衣は少しだけ笑う。
☆
結衣 「行きたい?」
☆
真衣はすぐに答えられない。
☆
真衣 「……行きたいとは思う」
☆
結衣 「じゃあ行けば?」
☆
真衣 「でも、二人ってなるとなんか違う」
☆
結衣 「違うね」
即答。
☆
真衣 「そこ否定しないんだ」
☆
結衣 「だって実際違うでしょ」
☆
真衣はクッションを抱える。
☆
真衣 「なんか最近、“選ぶ”こと多すぎない?」
☆
結衣 「増える時期なんだよ」
☆
真衣 「めんどくさい時期だ」
☆
結衣 「それはそう」
☆
夜。
グループ通話。
なぜか真衣まで参加させられていた。
☆
龍也 『夏祭り!!集合な!!』
瑠姫愛 『うるさい』
一将 『毎年同じテンションだな』
雷斗 『学習しない』
龍也 『なんで俺だけ!?』
☆
真衣は少しだけ笑う。
こういう空気は嫌いじゃない。
☆
玲緒菜 『真衣ちゃんも来るんだよね?』
真衣 「あ、はい」
☆
龍也 『賢太郎も来るらしいぞ』
☆
真衣 「……は?」
☆
一瞬で空気が変わる。
☆
龍也 『え、知らなかった?』
瑠姫愛 『龍也』
龍也 『あ』
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真衣は静かに顔を覆う。
☆
結衣 「最悪」
龍也 『ごめんって!!』
☆
通話の向こうで笑い声が広がる。
でも真衣だけは笑えない。
☆
通話が終わったあと。
真衣は自室のベッドに倒れ込む。
☆
真衣 「なんで夏祭りでこんな緊張するの……」
☆
スマホが震える。
賢太郎から。
『龍也がごめん』
☆
真衣は少しだけ笑ってしまう。
☆
『別にいい』
送信。
数秒後。
『でも、ちゃんと一緒に回りたい』
☆
真衣は画面を見たまま固まる。
☆
夏祭り。
浴衣。
人混み。
並んで歩く距離。
☆
想像しただけで、落ち着かない。
☆
でも。
嫌じゃなかった。
☆
真衣 「……ほんと、ずるい」
小さく呟く。
☆
窓の外では、夏の風がゆっくり揺れていた。
祭りの日は、少しずつ近づいている。




