第85話「揺れる答え」
夜の風は、昼間より少しだけ冷たかった。
真衣は家に帰る途中、何度も足を止めそうになりながら歩いていた。
さっきの言葉が、頭の中で繰り返される。
『同じ高校で、青春したい』
『一緒に行きたい』
嬉しかったはずなのに、胸の奥が落ち着かない。
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結衣の家に戻ると、リビングの明かりはまだついていた。
結衣 「遅かったね」
真衣 「うん……ちょっと」
結衣はすぐに察する。
結衣 「賢太郎くん、会ってた?」
真衣 「うん」
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真衣は靴を脱ぎながら、ゆっくりリビングへ入る。
結衣の前に座ると、しばらく黙ったままだった。
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結衣 「何か言われた?」
真衣 「……言われた」
結衣 「うん」
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真衣は少しだけ息を吸う。
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真衣 「一緒に高校行って、青春したいって」
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結衣の動きが止まる。
でも驚きというより、静かな理解だった。
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結衣 「そっか」
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真衣 「好きって言われた」
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その一言で、空気が少しだけ変わる。
結衣はすぐには返さない。
慎重に言葉を選んでいるようだった。
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結衣 「それで、どう思った?」
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真衣は視線を落とす。
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真衣 「嬉しかった」
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少しの間。
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真衣 「でも、怖くもなった」
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結衣 「うん」
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結衣はそれ以上急かさない。
真衣は続ける。
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真衣 「なんかさ」
真衣 「“一緒に行く理由”がはっきりしちゃった感じがして」
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結衣 「理由がはっきりするのは悪いことじゃないよ」
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真衣 「でも、それって私の理由なのかなって思って」
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結衣はゆっくり頷く。
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結衣 「うん、その違和感は大事だと思う」
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少しの沈黙。
扇風機の音だけが部屋に残る。
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真衣 「お姉ちゃんさ」
結衣 「うん」
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真衣 「“一人でも選べるか”って言ってたよね」
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結衣 「言ったね」
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真衣 「それ、やっぱり難しい」
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結衣は少しだけ笑う。
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結衣 「うん、難しいよ」
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真衣 「でもさ」
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真衣は顔を上げる。
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真衣 「一人で考えると、全部怖くなる」
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結衣 「わかる」
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真衣 「でも、一緒に考えると答えが見えなくなる」
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結衣 「それもわかる」
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結衣は少しだけ考えてから言う。
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結衣 「たぶんね」
結衣 「どっちかに寄りすぎると、迷うんだと思う」
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真衣 「どういうこと?」
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結衣 「一人すぎても怖いし、誰かに寄りすぎても決められない」
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真衣は黙る。
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結衣 「だから」
結衣 「その間にいるしかないんじゃないかな」
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真衣は小さく息を吐く。
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真衣 「間ってなに」
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結衣 「わからないまま、考え続ける場所」
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真衣は天井を見上げる。
さっきより少しだけ呼吸が楽になっている気がした。
でも答えはまだ遠い。
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真衣 「ねぇ」
結衣 「うん」
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真衣 「私、どうしたらいいのかな」
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結衣は少しだけ笑う。
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結衣 「まだ決めなくていいよ」
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結衣 「でも、ちゃんと揺れてるのはいいことだと思う」
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真衣はゆっくり目を閉じる。
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真衣 「揺れてるの、いいことなんだ」
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結衣 「うん」
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静かな時間。
でもその中には、確かに“進んでいる感じ”があった。
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真衣の答えはまだ形にならない。
それでも、少しずつ前には進んでいた。




