第84話「言葉にされた未来」
夏の夕方は、長い。
まだ明るいのに、どこか一日が終わりかけている空気がある。
結衣の家の前。
真衣は玄関を出て、賢太郎と並んで歩いていた。
少し前までの「相談」から、今は沈黙の時間が続いている。
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賢太郎 「さっきの話なんだけど」
真衣 「うん」
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賢太郎は歩く速度を少しだけ緩める。
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賢太郎 「俺はさ」
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その声は、いつもより少しだけ真剣だった。
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賢太郎 「同じ高校に行きたい」
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真衣 「……うん」
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賢太郎 「真衣と一緒に行って、普通に、楽しく過ごしたい」
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真衣の足が少しだけ止まる。
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真衣 「それって」
真衣 「友達として?」
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賢太郎は少しだけ黙る。
夕方の風が一瞬だけ強くなる。
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賢太郎 「違う」
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その一言で、空気が変わった。
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賢太郎 「真衣のこと、ちゃんと好きだと思う」
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真衣 「……え」
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賢太郎は視線を逸らさない。
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賢太郎 「だから一緒に行きたい」
賢太郎 「同じ高校で、同じ時間過ごして」
賢太郎 「ちゃんと青春したい」
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真衣は言葉を失う。
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“青春したい”
その言葉が、やけに現実的で、やけに重かった。
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真衣 「それってさ」
真衣 「私がいるから?」
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賢太郎 「それもある」
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賢太郎 「でも、それだけじゃない」
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少しの沈黙。
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賢太郎 「真衣と一緒じゃなくてもその高校は選ぶと思う」
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真衣は目を細める。
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真衣 「ほんとに?」
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賢太郎 「うん」
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賢太郎 「でも、真衣と一緒ならもっといいって思う」
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真衣の中で、何かがゆっくりと揺れる。
安心と、戸惑いと、少しの嬉しさ。
それが全部同じ場所に重なっている。
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真衣 「ずるい」
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賢太郎 「何が?」
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真衣 「そう言われたら、断りにくい」
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賢太郎は少しだけ困ったように笑う。
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賢太郎 「断ってもいいよ」
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真衣 「それもずるい」
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沈黙。
夏の虫の声が遠くで鳴いている。
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真衣はゆっくり息を吸う。
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真衣 「ねぇ」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「それってさ」
真衣 「私がいないとダメってことじゃないよね」
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賢太郎は少しだけ考えてから言う。
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賢太郎 「ダメじゃない」
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賢太郎 「でも、いないよりはいい」
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真衣は少しだけ笑う。
でも、その笑いは揺れている。
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真衣 「それ、一番困るやつ」
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賢太郎 「ごめん」
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真衣は空を見上げる。
まだ明るいのに、夕方の色が濃くなっている。
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真衣 「私さ」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「まだ“好き”って何かよくわかんない」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「でも」
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真衣は少しだけ視線を落とす。
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真衣 「一緒に行くのは、ちょっと嬉しい」
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賢太郎は一瞬だけ表情を緩める。
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賢太郎 「それでいいと思う」
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真衣 「ほんとに?」
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賢太郎 「うん」
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賢太郎 「今はそれで十分」
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別れたあと。
真衣は一人で歩きながら、何度も同じ言葉を反芻していた。
『同じ高校で、青春したい』
嬉しいのに、怖い。
安心なのに、不安。
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真衣 「……選ぶって、こういうこと?」
小さく呟く。
まだ答えは出ていない。
でも、ひとつだけ確かだった。
☆
もう「知らないふり」はできないところまで来ている。




