第83話「ふたりの答え合わせ」
夏休みの昼間は、静かすぎて少し落ち着かない。
扇風機の音だけが、部屋の時間をゆっくり回していた。
☆
結衣の家。
真衣はリビングでスマホを見つめたまま、何度か画面を点けては消している。
パンフレットはもう開かれていない。
代わりに、ひとつだけ決まっていることがあった。
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真衣 「……来てもらお」
結衣 「誰に?」
真衣 「賢太郎」
結衣 「え」
☆
結衣が振り向くと、真衣はすでにメッセージを打ち終えていた。
『今日ちょっと来れる?話ある』
送信。
☆
結衣 「急だね」
真衣 「こういうのは勢い」
結衣 「誰に教わったのそれ」
真衣 「お姉ちゃんの友達の雰囲気」
結衣 「やめて」
☆
少しだけ空気がゆるむ。
夕方。
インターホンが鳴る。
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真衣 「来た」
結衣 「早い」
真衣 「近いから」
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扉を開けると、賢太郎が立っていた。
落ち着いた表情で、少しだけ首をかしげる。
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賢太郎 「何かあった?」
真衣 「うん」
即答だった。
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賢太郎は一瞬だけ黙る。
そして靴を脱ぐ。
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賢太郎 「入るね」
真衣 「うん」
結衣 「……私は?」
真衣 「いていい」
結衣 「扱い雑」
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リビング。
真衣と賢太郎は向かい合って座る。
結衣は少し離れた位置で見ている。
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真衣 「ねぇ」
賢太郎 「うん」
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真衣 「高校、同じとこ行くじゃん」
賢太郎 「そうだね」
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真衣は一度だけ息を吸う。
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真衣 「それさ」
真衣 「どう思ってる?」
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賢太郎はすぐには答えない。
少しだけ間を置く。
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賢太郎 「普通にいいと思ってる」
真衣 「普通に?」
賢太郎 「うん」
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真衣は少しだけ眉を寄せる。
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真衣 「それってさ」
真衣 「私が行くから?」
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賢太郎は少しだけ目を細める。
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賢太郎 「それもあるけど」
賢太郎 「それだけじゃないよ」
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真衣 「ほんとに?」
賢太郎 「うん」
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静かな空気。
扇風機の音だけが続く。
真衣は少しだけ言葉を探す。
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真衣 「じゃあさ」
真衣 「もし私が行かないって言ったら?」
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賢太郎はその言葉に、初めて少しだけ表情を変える。
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賢太郎 「それは困る」
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真衣 「ほら」
真衣は小さく笑う。
でもその笑いは、少しだけ不安を含んでいた。
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賢太郎は続ける。
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賢太郎 「でも、それでも決めるのは真衣だよ」
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真衣 「……ずるい」
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賢太郎 「何が?」
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真衣 「優しいのに、全部私に投げてる」
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賢太郎 「投げてるつもりはないよ」
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少しの沈黙。
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結衣はそのやり取りを見ながら、何も言えないでいる。
真衣は視線を落とす。
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真衣 「一緒に行くのってさ」
真衣 「安心なんだよ」
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賢太郎 「うん」
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真衣 「でも、それでいいのか分からない」
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賢太郎 「分からなくていいと思う」
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真衣 「またそれ?」
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賢太郎 「だって、まだ中学生だし」
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真衣 「そういう問題じゃない」
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賢太郎は少しだけ考える。
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賢太郎 「じゃあさ」
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真衣 「うん」
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賢太郎 「真衣はさ」
賢太郎 「俺がいなくても、その学校行きたいと思う?」
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真衣は固まる。
長い沈黙。
扇風機の音だけが、やけに大きく感じる。
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真衣 「……わかんない」
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賢太郎 「そっか」
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責めるでもなく、安心させるでもない返事。
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それが逆に、真衣には重かった。
夜。
賢太郎が帰ったあと、結衣と真衣はリビングに残る。
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真衣 「むずい」
結衣 「うん」
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真衣はソファに倒れ込む。
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真衣 「一緒でもいいって言ってほしかった」
結衣 「言ってほしかった?」
真衣 「ちょっとだけ」
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結衣は少しだけ笑う。
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結衣 「でも、それだと決めたことにならないね」
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真衣 「うん……」
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沈黙。
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結衣は静かに言う。
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結衣 「たぶんさ」
結衣 「一緒に行くかどうかじゃなくて」
結衣 「“一緒じゃなくてもいいと思えるか”なんだと思う」
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真衣は天井を見たまま動かない。
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真衣 「それ、難しすぎ」
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結衣 「だよね」
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少しだけ笑う。
でも、その笑いの奥にはちゃんと現実がある。
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選ぶことは、誰かを選ぶことと、少し違う。
そしてそれは、まだ真衣には早い問いだったのかもしれない。




