第80話「同じ選択」
夏休みが本格的に始まる少し前。
結衣の家には、相変わらず高校のパンフレットが開かれたまま置かれていた。
その隣に、もう一つの話題が増えている。
結衣 「真衣、まだ迷ってるの?」
真衣 「迷ってるっていうか……」
結衣 「っていうか?」
真衣 「賢太郎も同じとこ行くって言うから、余計わかんなくなった」
結衣は一瞬だけ動きを止める。
結衣 「賢太郎?」
真衣 「うん、兼次郎さんの弟」
その名前で、空気が少しだけ変わる。
結衣 「あの子と同じ中学なんだ」
真衣 「そう。めっちゃ普通に友達」
結衣 「普通に友達って言うの、ちょっと変な感じ」
真衣 「そう?」
真衣はパンフレットを指でなぞる。
真衣 「でさ、そのまま同じ高校行くっぽいんだよね」
結衣 「決めたの?」
真衣 「ほぼ」
少しの沈黙。
結衣 「それ、楽そうに見えてる?」
真衣 「うん。ちょっとだけ」
結衣はゆっくり息を吐く。
結衣 「楽じゃないと思うよ」
真衣 「え」
結衣 「同じって、安心でもあるけどさ」
結衣 「逃げ場もなくなるから」
真衣は黙る。
真衣 「逃げ場?」
結衣 「うん」
結衣 「良くも悪くも、比べられる場所になる」
真衣は視線を落とす。
真衣 「それ、ちょっと嫌かも」
結衣は少しだけ笑う。
結衣 「でしょ」
その夜。
結衣は瑠姫愛にメッセージを送る。
『ちょっと相談ある』
『カフェでいい?』
すぐに返事が来る。
『行く』
駅前のカフェ。
瑠姫愛はすでに座っていた。
瑠姫愛 「で、妹ちゃんの件?」
結衣 「うん」
結衣は真衣と賢太郎の話をする。
瑠姫愛は黙って聞いていた。
瑠姫愛 「仲いいのはいいことだね」
結衣 「うん、でもさ」
結衣 「一緒に行くのって、正解なのかなって」
瑠姫愛はコーヒーを一口飲む。
瑠姫愛 「正解かどうかって、誰が決めるの?」
結衣 「本人?」
瑠姫愛 「そう」
少しの間。
瑠姫愛 「でもさ」
瑠姫愛 「一緒に行くこと自体は悪くないよ」
結衣 「そうなの?」
瑠姫愛 「うん。ただ、一緒だから安心なのか、一緒じゃないと不安なのかで違うだけ」
結衣はその言葉をゆっくり飲み込む。
結衣 「……真衣はどっちなんだろ」
瑠姫愛 「それは本人にしかわからない」
夕方。
駅前の広場。
いつもの六人。
龍也 「で、また進路の話?」
結衣 「うん」
龍也 「妹界隈忙しすぎだろ」
一将 「普通だ」
龍也 「またそれか!!」
玲緒菜 「真衣ちゃんと賢太郎くん、同じ高校行くんだって」
雷斗 「そうか」
瑠姫愛 「いいと思うけどね」
結衣 「でも不安みたい」
少しの沈黙。
一将 「別に、離れるよりはいいだろ」
龍也 「お前雑だな」
一将 「現実だ」
玲緒菜は空を見る。
玲緒菜 「一緒に行くって、選び方の一つだよね」
龍也 「選び方って言い方かっこいいな」
結衣は小さく頷く。
結衣 「でも、ちゃんと自分で決めてほしい」
瑠姫愛 「それでいいんじゃない」
帰り道。
結衣はふと思い出す。
真衣の「楽そう」という言葉。
その中身は、まだはっきりしない。
でも一つだけわかる。
選ぶことは、いつも一人だけの問題じゃない。
誰かと並ぶことで、もっと複雑になる。
それでも、進むしかない。




