第76話「それぞれの温度」
雨が止んだ翌日、街は少しだけ洗われたように見えた。
濡れたアスファルトが光を反射して、いつもより静かに感じる。
☆
玲緒菜は大学の階段を上がりながら、イヤホンを外した。
講義の音と人の声が一気に戻ってくる。
その中で、スマホが震えた。
『今日、いつもの場所』
龍也。
短い言葉。
それだけで十分だった。
☆
玲緒菜 『行く』
即答。
放課後。
駅前の広場。
まだ地面には少しだけ雨の名残がある。
☆
龍也 「おっっそい!!」
玲緒菜 「早いのが悪い」
龍也 「毎回それ言うな!!」
☆
結衣 「また同じやり取りしてる」
一将 「ルーティンだな」
瑠姫愛 「もはや儀式」
雷斗 「くだらん」
☆
少しだけ笑いが広がる。
でも、その笑いは以前より落ち着いている。
☆
歩きながら、結衣がふと空を見る。
結衣 「なんかさ」
一将 「なんだ」
結衣 「前より静かじゃない?」
一将 「人数減ってるからだろ」
結衣 「そういう意味じゃなくて」
少し考えてから続ける。
結衣 「“騒がしさの種類”が変わった感じ」
一将 「知らん」
結衣 「即答やめて」
一将 「事実だ」
結衣は少しだけ笑った。
カフェ前の道。
瑠姫愛は傘をくるくる回している。
瑠姫愛 「ねぇ雷斗」
雷斗 「なんだ」
瑠姫愛 「こうやって会うのってさ」
雷斗 「うん」
瑠姫愛 「前より“当たり前”になったよね」
雷斗 「そうだな」
瑠姫愛 「でも、ちょっと怖くない?」
雷斗 「何が」
瑠姫愛 「当たり前って、なくなるかもしれないじゃん」
雷斗は少しだけ空を見る。
雷斗 「なくなるなら、その時だろ」
瑠姫愛 「冷たい」
雷斗 「現実だ」
瑠姫愛は少しだけ笑った。
瑠姫愛 「でも安心する」
広場のベンチ。
龍也がスマホをいじりながら叫ぶ。
龍也 「おい、今日も全員集合早すぎ!!」
玲緒菜 「遅いのが悪い」
龍也 「お前ら結託すんな!!」
結衣 「自然とね」
一将 「慣れだ」
雷斗 「習慣」
瑠姫愛 「儀式」
龍也 「だから儀式やめろ!!」
☆
玲緒菜はそのやり取りを見ながら、少しだけ息を吐く。
玲緒菜 「ほんと、温度変わったね」
龍也 「何それ」
玲緒菜 「うるささの温度」
結衣 「また詩人」
一将 「でもわかる」
雷斗 「悪くない」
瑠姫愛 「いいんじゃない?」
龍也 「お前ら俺の扱い雑すぎない?」
帰り道。
夕焼けが少しだけ柔らかい。
龍也 「なぁ」
結衣 「また?」
龍也 「いやさ」
少しだけ間。
龍也 「前みたいに全部話さなくてもさ」
龍也 「それでも繋がってるって思っていいのかな」
一将 「いいだろ」
瑠姫愛 「うん」
雷斗 「問題ない」
結衣 「むしろそれじゃない?」
玲緒菜は少しだけ空を見る。
玲緒菜 「話さなくても残るものがあるから」
龍也 「またそれ?」
玲緒菜 「事実だよ」
龍也 「……まぁ、いいけどさ」
少しだけ笑いが漏れる。
夜。
それぞれの部屋。
スマホに短い通知。
『次いつ?』
龍也。
玲緒菜は一瞬だけ見てから返す。
『また今度でいい』
『了解』
すぐ既読。
それだけで会話が終わる。
でも、それで終わりじゃない。
玲緒菜は机に向かいながら思う。
“続ける”って、こういうことなのかもしれない。




