第77話「少しだけ違う今日」
夏に向かう途中の街は、気温だけが先に進んでいた。
まだ暑いと言い切れないのに、確実に空気は変わっている。
☆
玲緒菜は大学の階段を降りながら、スマホを見た。
『今日、少し早めに』
龍也。
短い。
でも、それがいつもの合図になっていた。
☆
玲緒菜 『了解』
それだけ送って、歩き出す。
駅前。
広場には、もう何度目かわからない集合。
☆
龍也 「今日はちゃんと全員早いな!」
結衣 「あなたが遅いだけ」
龍也 「やめろその正論!!」
一将 「事実だ」
雷斗 「変わらんな」
瑠姫愛 「安定してるね」
☆
玲緒菜は少しだけ笑う。
玲緒菜 「ほんと、変わらないね」
龍也 「いやお前らが俺をいじる流れ固定されてるのが問題だろ」
☆
歩き出す。
いつもの道。
でも、少しだけ空気が違う。
☆
結衣 「ねぇ」
一将 「なんだ」
結衣 「最近さ、会うときの“間”増えてない?」
一将 「忙しいだけだろ」
結衣 「そういう意味じゃなくて」
結衣は少しだけ言葉を探す。
結衣 「沈黙が怖くなくなったっていうか」
一将 「慣れたんだろ」
結衣 「それっていいこと?」
一将 「悪くはない」
結衣は小さく笑った。
結衣 「だよね」
カフェの前。
瑠姫愛はベンチに座りながら空を見る。
瑠姫愛 「雷斗」
雷斗 「なんだ」
瑠姫愛 「前よりさ、ちゃんと落ち着いたよね」
雷斗 「騒がしいのが減っただけだ」
瑠姫愛 「それって成長?」
雷斗 「知らん」
瑠姫愛 「即答」
雷斗 「でも、悪くない」
瑠姫愛は少しだけ目を細める。
瑠姫愛 「それでいいか」
広場。
龍也が腕を組んで立っている。
龍也 「なぁ」
全員が見る。
龍也 「俺さ」
龍也 「最近思うんだけど」
少しだけ間。
龍也 「この集まり、前ほど“理由”ないよな」
結衣 「もともとない」
一将 「呼ばれたから来てるだけ」
雷斗 「それが理由だろ」
瑠姫愛 「十分じゃない?」
玲緒菜は少しだけ頷く。
玲緒菜 「うん」
龍也 「いや雑すぎだろ!!」
☆
でも、誰も笑っている。
それが答えだった。
夕方。
帰り道。
空が少しだけ高い。
龍也 「なぁ」
結衣 「また?」
龍也 「いやさ」
少しだけ真面目な声。
龍也 「こういうのってさ」
龍也 「いつか終わるのかな」
一瞬、空気が止まる。
一将 「知らん」
瑠姫愛 「終わらせなきゃ終わらないんじゃない?」
雷斗 「続くなら続く」
結衣 「それだけでいいよ」
玲緒菜は少しだけ前を見て言う。
玲緒菜 「終わるかどうかじゃなくて」
玲緒菜 「続けるかどうかだと思う」
龍也 「……お前さ、ほんとたまに重いんだよ」
玲緒菜 「そう?」
龍也 「そうだよ」
少しだけ笑いが起きる。
夜。
それぞれの部屋。
スマホ。
『次いつ?』
龍也。
玲緒菜は少しだけ考えてから送る。
『決めないでいい』
すぐ既読。
『それいいな』
龍也の返信は短い。
玲緒菜はスマホを置く。
窓の外は静かで、少しだけ風が動いていた。
玲緒菜 「……これが普通か」
少し違う今日が、また積み重なっていく。




