第72話「それぞれの新生活」
卒業式から数日後。
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街の空気は、少しずつ春へ変わっていた。
まだ肌寒い。 でも、風は柔らかい。
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高校へ続く坂道。
そこを今、 制服ではない玲緒菜が歩いていた。
私服。 薄いベージュのコート。
もう“高校生”じゃない。
それだけで、 少し不思議な気持ちになる。
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校門前。
桜が、前より少し咲いていた。
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玲緒菜 「……ほんとに卒業したんだ」
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スマホが震える。
『どこー?』
龍也。
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玲緒菜 『もう着く』
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学校近くのファミレス。
扉を開けると――
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龍也 「おっせぇ!!!」
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いつもの声。
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玲緒菜 「まだ集合時間前だけど?」
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瑠姫愛 「龍也が30分前からいるだけ」
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龍也 「最後の集まりかもしれねぇだろ!」
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一将 「まだ三日しか経ってない」
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結衣が小さく笑う。
雷斗は窓側でスマホを見ていた。
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玲緒菜 「……なんか変な感じ」
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瑠姫愛 「制服じゃないから?」
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玲緒菜 「うん」
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高校時代なら、 自然に見えていた六人。
でも今日は少し違う。
服装も。 髪型も。 空気も。
少しだけ“大人側”へ進んでいる。
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龍也 「てかさ!!」
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嫌な予感。
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龍也 「みんな大学始まったら絶対疎遠になるやつじゃね!?」
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瑠姫愛 「急に重い」
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一将 「お前そういうこと言うなよ」
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龍也 「だってさぁ!!」
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結衣 「……でも、ちょっと分かる」
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少し静かになる。
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大学。
新生活。
バイト。
新しい友達。
新しい環境。
これまでみたいに、 毎日顔を合わせることはなくなる。
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玲緒菜 「……変わるの、怖い?」
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誰に向けた言葉か、 分からなかった。
でも。
全員少しだけ、 考える顔をした。
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瑠姫愛 「私はちょっと怖いかも」
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龍也 「え、意外」
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瑠姫愛 「だって今まで当たり前だったじゃん」
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一将 「まあな」
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瑠姫愛 「学校行けば会えて、 帰り道一緒で、 休み時間バカ騒ぎして」
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少し笑う。
でも目は優しかった。
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「そういうの、もう無いんだなって」
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沈黙。
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その空気を破ったのは雷斗だった。
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雷斗 「別に終わるわけじゃねぇだろ」
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全員が見る。
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雷斗 「学校が変わるだけだ」
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龍也 「……雷斗」
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雷斗 「会いたきゃ連絡すればいい」
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瑠姫愛 「急にまともなこと言った」
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雷斗 「失礼だな」
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玲緒菜は少し笑った。
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たぶん。
みんな不安だった。
“この時間”が終わること。
大人になること。
変わってしまうこと。
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でも。
変わることは、 失うことだけじゃない。
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結衣 「……じゃあさ」
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全員が見る。
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結衣 「次集まる日、決めとく?」
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龍也 「天才!!!」
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一将 「お前そういうのだけ反応早いな」
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瑠姫愛 「いつにする?」
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スマホを出し始める。
予定表。
バイト。
入学式。
サークル説明会。
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高校生の頃には無かった予定が並ぶ。
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玲緒菜はそれを見ながら思った。
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“未来”って、 こうやって始まるんだ。
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龍也 「よし!!GW集合!!」
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瑠姫愛 「早すぎ」
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雷斗 「どうせまた会うだろ」
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玲緒菜 「でも、その“どうせ”が嬉しいかも」
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一瞬。
空気が静かになる。
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そして。
六人が笑った。
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窓の外。
春の風が、 桜を揺らしていた。
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季節は変わる。
景色も変わる。
関係も、 少しずつ形を変える。
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でも。
きっとこの六人は、 何度春が来ても、 また笑い合える。
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そんな気がした。




