第70話「届かなかった“卒業式”」
卒業式後。
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最後のHRが終わった教室。
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泣き声。
笑い声。
写真。
寄せ書き。
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“終わった”という実感が、 少しずつ広がっていた。
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龍也はもう完全に涙腺崩壊していた。
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龍也
「むりぃぃぃぃ……」
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瑠姫愛
「泣きすぎでしょ」
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でも。
瑠姫愛の目も赤い。
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結衣は女子同士で写真を撮っていた。
一将は静かにその様子を見ている。
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玲緒菜は窓際で、 卒業証書の筒を見つめていた。
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終わった。
高校生活。
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その時だった。
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担任
「……あー、そうだ」
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教室の空気が少し止まる。
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担任は教卓の上に、 二通の封筒を置いた。
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「茉優と兼次郎から」
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玲緒菜
「え?」
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龍也
「手紙?」
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担任
「“卒業式出れない代わりに、最後に読んでください”だと」
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一気に空気が静かになる。
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茉優。
兼次郎。
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もう東京で大学準備を始めている二人。
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でも。
本当は今日、 一緒に卒業したかったはずだ。
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担任
「……誰読む?」
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龍也
「俺読む」
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瑠姫愛
「絶対途中で泣くじゃん」
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龍也
「もう泣いてるわ!!」
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教室に少し笑いが起きる。
☆
でも。
その笑いも、 どこか寂しい。
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担任はまず、 茉優の封筒を開けた。
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「じゃあ読むぞ」
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教室が静まる。
☆
担任
『三年A組のみんなへ!』
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その瞬間。
もう“茉優の声”で再生された。
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担任
『まず最初に! 卒業式行けなくてごめん!!』
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クラスから小さな笑い。
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『本当は絶対みんなと写真撮りたかったし、最後一緒に帰りたかった!』
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玲緒菜の胸が少し締め付けられる。
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『でも、先に東京来たのは後悔してません!』
『だって夢のスタートだから!』
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茉優らしい。
前向きで。
真っ直ぐで。
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『でもね。』
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担任の声が少しゆっくりになる。
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『このクラスじゃなかったら、私は途中で絶対折れてました。』
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静かになる教室。
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『模試で病んだ時も。』
『恋愛で騒いでた時も。』
『進路で泣きそうだった時も。』
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『みんながいたから笑えました。』
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瑠姫愛が俯く。
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結衣は口元を押さえていた。
☆
担任
『特に玲緒菜!』
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玲緒菜
「え、私?」
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担任
『補欠の時、ほんとは一番不安だったのに、周りに気遣ってたの気付いてたよ。』
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玲緒菜の目が揺れる。
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『だから最後受かった時、東京で普通に泣いた。』
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龍也
「うわぁぁぁ……」
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もうダメだった。
☆
担任
『みんな、大好きです!』
『卒業おめでとう!!』
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教室が静まり返る。
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そして。
次。
兼次郎の手紙。
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龍也
「うわ絶対重い」
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担任
「偏見やめろ」
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少し笑いが起きる。
でも。
みんなもう涙を堪え始めていた。
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担任が封筒を開ける。
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『三年A組のみんなへ。』
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兼次郎らしい、 丁寧な字。
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『まずは卒業おめでとう。』
『直接言えないのが少し残念です。』
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静かな文章。
でも。
だからこそ刺さる。
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『高校三年間。』
『正直、楽しいだけじゃありませんでした。』
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玲緒菜は顔を上げる。
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『苦しい時も、逃げたくなった時もありました。』
『でも、そのたびに誰かが隣にいました。』
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龍也が俯く。
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担任
『龍也の馬鹿みたいな明るさ。』
『瑠姫愛の優しさ。』
『結衣の真面目さ。』
『一将の冷静さ。』
『雷斗の不器用な言葉。』
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そして。
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『玲緒菜の、“誰かを置いていかない強さ”。』
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玲緒菜の涙が落ちる。
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担任
『あの教室だったから、ここまで来れました。』
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教室の空気が、 もう限界だった。
担任
『卒業しても、きっと人生は上手くいかない事ばかりです。』
『でも。』
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『この三年間を思い出せば、少しは前を向ける気がします。』
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龍也
「っ……」
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担任
『みんなと出会えて、本当に良かった。』
『卒業、おめでとう。』
『また会おう。』
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読み終わる。
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沈黙。
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そして――。
☆
龍也
「むりだってぇぇぇぇ……!!」
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完全崩壊。
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瑠姫愛も泣いていた。
結衣も。
玲緒菜も。
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担任ですら、 少し目を逸らしていた。
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一将が静かに言う。
「……ずるいな」
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玲緒菜
「来てないのに一番泣かせるじゃん……」
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涙混じりの笑い。
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でも。
分かっていた。
☆
茉優も。
兼次郎も。
この教室に確かにいた。
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一緒に笑って。
悩んで。
未来を語って。
ここまで来た。
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卒業式には来られなかった。
でも。
ちゃんと“同じ卒業”だった。
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春の光が、 教室へ差し込む。
☆
三年間の思い出が、 静かに終わりを迎えていた。




