第68話「卒業式前日」
卒業式前日。
朝。
いつも通りのはずなのに。
いつも通りじゃない。
黒板には、誰かが大きく書いていた。
「高校生活、残り一日!」
龍也「やめろおおお!!!」
教室に入った瞬間に叫ぶ。
瑠姫愛「朝からうるさいな!」
龍也「いや無理やろ?」
「残り一日って急に現実感えぐいやろ?」
結衣は苦笑いする。
「昨日まであと一週間だと思ってたのにさ!」
一将「一週間って秒だ!」
玲緒菜は自分の席に座る。
窓際。
三年間見続けた景色。
グランド。
体育館。
中庭。
あのベンチ。
全部、明日で高校時代の景色になる。
その時。
担任が教室へ入ってきた。
「はい、おはよ~!」
いつもの声。
でも。
少しだけ柔らかい。
担任「明日、卒業式だからな!」
「今から会場準備するぞ!」
龍也「え~俺たちの卒業式じゃんか!」
担任「最後ぐらい自分らで作ろうぜ!卒業式をね!」
笑いが起きる。
でも。
みんな少しだけ笑顔が弱い。
最後という言葉が、今日はいちいち刺さる。
体育館。
卒業準備。
椅子並べ。
紅白幕。
壇上確認。
瑠姫愛
「卒業式感、やばい…」
結衣
「急に実感来るね!」
龍也はパイプ椅子を運ぶながら叫ぶ。
「まだ卒業したくねえ!」
雷斗
「龍也、手を動かせ!」
龍也
「冷静か!」
でも。
雷斗も今日は少し静かだった。
玲緒菜はその横顔を見る。
この一年。
色んなことがあった。
受験。
不安。
補欠。
合格。
そして。
ずっと隣りにいた人たち。
体育館の窓から、春の日差しが入る。
少し暖かい。
準備が終わるころには、もう夕方近くなっていた。
教室へ戻る。
誰かが言う。
「最後だし、写真撮ろうぜ!」
一気に空気が動く。
スマホ。
ピース。
変顔。
集合写真。
龍也
「玲緒菜、もっと前に来いよ!」
玲緒菜
「近すぎる!」
瑠姫愛
「一将、笑って!」
一将
「笑ってるし!」
結衣
「分かりづらいな!」
担任まで捕まる。
担任
「なんで俺まで!」
龍也
「先生が居て3Aです!」
担任
「卒業するのはお前らだろ?でもこのクラスの担任で良かった!ありがとうな!」
カシャ。
シャッター音。
その一枚一枚が最後になっていく。
放課後。
日が落ち始めた教室。
帰る生徒たち。
「また明日!」
でも。
みんな分かってる。
また明日が、高校生として最後の日だと。
玲緒菜は席で荷物をまとめていた。
その時。
雷斗が近づいてくる。
雷斗
「玲緒菜、帰るぞ!」
玲緒菜
「…うん」
二人で廊下を歩く。
夕焼け。
静かな校舎。
玲緒菜
「ねえ~」
雷斗
「ん?」
玲緒菜は少し笑う。
「卒業実感ある?」
雷斗は少し考える。
「まだないかも!」
玲緒奈
「私もないかも!」
階段を下りる。
窓の外。
桜のつぼみ。
春はもうすぐ。
玲緒菜
「でもさ」
雷斗を見る。
「明日終わったら、本当にバラバラになるんだね!」
少しだけ寂しそうな声。
雷斗は前を向いたまま言う。
「別に会えないわけじゃないじゃん!」
玲緒菜
「そうだけど…」
雷斗
「お前、考えすぎやで!」
玲緒菜
「うるさい!」
でも。
少しだけ安心した。
昇降口。
靴を履き替える。
三年使った靴箱。
玲緒菜
「…終わるんだな!」
雷斗は静かに校舎を見る。
「長かったな!」
その言葉がやけに胸に残った。
校門を出る。
夕暮れ。
春の風。
高校生活最後の前日が、静かに終わっていく。




