第62話 「それぞれの春」
三月中旬。
☆
合格発表は、まだ続いていた。
☆
一気に終わるわけじゃない。
それぞれの大学が、 それぞれの時間で結果を出す。
☆
教室には、 静かな緊張が残っていた。
☆
結衣と一将の合格が出てから数日。
空気は少しだけ明るくなっていた。
結衣
天野一将
☆
でも。
まだ“全員”ではない。
☆
その日。
瑠姫愛がスマホを見た瞬間、 手が止まった。
瑠姫愛
「……受かった」
☆
龍也がすぐ振り向く。
龍也
「マジで!?」
☆
瑠姫愛は少しだけ笑う。
涙が滲んでいる。
「早稲田、受かった……」
☆
次の瞬間。
龍也が頭を抱えた。
「よっしゃああああ!!」
☆
屋上みたいな場所にいた空気が一気に崩れる。
☆
結衣も笑う。
「ほんとに続いてるじゃん!」
一将は静かに一言。
「順調だな」
☆
その“順調”が、 どれだけ重いかはみんな分かっていた。
☆
その日の午後。
☆
普通科。
☆
雷斗はスマホを見たまま動かなかった。
武田雷斗
「……受かった」
☆
玲緒菜が顔を上げる。
篠田玲緒菜
「ほんとに?」
☆
雷斗は少しだけ息を吐く。
「京大」
☆
短い言葉。
でも。
そこに全部が詰まっていた。
☆
玲緒菜は笑う。
「おめでとう」
☆
雷斗は少しだけ頷いた。
「お前のおかげもある」
☆
玲緒菜が止まる。
☆
「……それは違うよ」
☆
でも。
嬉しかった。
☆
そして。
夕方。
☆
教室。
☆
担任が静かに言う。
「最後だな」
☆
全員が息を呑む。
☆
残っているのは、 ただ一人。
☆
玲緒菜。
☆
スマホを握る手が冷たい。
☆
京大。
☆
合格発表。
☆
指が震える。
☆
タップ。
☆
画面が開く。
☆
数秒。
☆
沈黙。
☆
そして。
☆
「……あ」
☆
玲緒菜は画面を見つめたまま動かない。
☆
「補欠……?」
☆
教室が静まる。
☆
誰もすぐに言葉を出せない。
☆
補欠合格。
☆
“合格でも、不合格でもない場所”。
☆
玲緒菜は小さく笑う。
「……なんだそれ」
☆
目が潤む。
☆
雷斗が隣に来る。
☆
「まだ終わってない」
☆
玲緒菜は顔を上げる。
☆
「でも、まだ決まってない」
☆
雷斗は静かに言う。
「可能性はある」
☆
その言葉が、 少しだけ胸に刺さる。
☆
結衣が優しく言う。
「玲緒菜、大丈夫」
☆
瑠姫愛も頷く。
「ここまで来たんだよ」
☆
龍也が笑う。
「最後までドラマ残すタイプだな」
☆
少しだけ空気が柔らかくなる。
☆
でも。
玲緒菜の中には、 まだ揺れがあった。
☆
“合格”じゃない。
でも“終わり”でもない。
☆
春は、 もう目の前まで来ているのに。
☆
それでも。
彼女の物語だけ、 まだページが残っていた。




