第61話 「合格発表」
三月。
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朝。
まだ空気は冷たい。
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でも。
その日は違った。
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“合格発表の日”。
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結衣はスマホを握ったまま動けなかった。
結衣
「……無理、見れない」
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龍也が隣で苦笑する。
龍也
「昨日からそれ言ってる」
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瑠姫愛も緊張している。
瑠姫愛
「心臓痛い……」
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一方。
一将は静かだった。
天野一将
いつも通り。
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結衣が横を見る。
「なんでそんな普通なの」
「見れば分かる」
「その“見れば”が怖いの!」
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時計を見る。
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——発表時間。
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沈黙。
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誰もスマホを開けない。
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でも。
結衣は深呼吸して、 画面を開いた。
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指が震える。
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タップ。
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一瞬の停止。
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次の瞬間。
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「……え?」
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画面を見つめる。
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しばらく動かない。
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龍也が覗き込む。
「どうだった?」
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結衣はゆっくり顔を上げる。
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そして。
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「……受かってる」
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一瞬。
空気が止まる。
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次の瞬間。
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「うおおおお!!」
「マジか!!」
「やった!!」
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教室(または待機場所)が爆発する。
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結衣はその場に崩れた。
「え、ほんとに?」
「ほんとに?」
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涙が出る。
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信じられない。
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でも画面には、 確かに“合格”の文字。
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東大教育学部。
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結衣は泣きながら笑う。
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「……生きてる……」
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龍也が笑う。
「そこまで?」
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その時。
一将も静かにスマホを見ていた。
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数秒。
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「受かってる」
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それだけ言った。
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結衣が振り向く。
「え」
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一将は画面を見せる。
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——東京大学 文科三類(合格)
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沈黙。
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次の瞬間。
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「ええええええええ!?」
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結衣が叫ぶ。
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「なんでそんな普通に言うの!?」
「事実だから」
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瑠姫愛も泣きながら笑っている。
瑠姫愛
「すごすぎる……!」
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龍也も頭を抱える。
「この空気の差なんなんだよ!」
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でも。
誰も否定しなかった。
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努力してきた二人が、 ちゃんと結果を出した。
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それがすべてだった。
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放課後。
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校舎。
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窓から夕日。
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結衣はまだ少し放心状態だった。
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「ほんとに受かったんだよね……?」
一将が隣を歩く。
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「受かった」
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「夢じゃない?」
「現実」
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結衣は笑う。
「一将くん、現実しか言わないのすごい」
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でも。
その現実が、 今は一番嬉しかった。
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屋上。
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瑠姫愛が空を見上げる。
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「終わったね」
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龍也が隣で言う。
「いや、始まったんじゃね?」
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結衣が笑う。
「どっちよ!」
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一将は少しだけ空を見る。
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「どっちでもいい」
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その言葉に、 みんな少し笑った。
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受験は終わった。
でも。
彼らの未来は、 ここから始まる。




