第55話 「自己採点」
共通テスト終了翌日。
学校。
☆
朝。
教室は異様な空気だった。
☆
静か。
でも。
張り詰めている。
☆
机の上には問題冊子。
自己採点用紙。
スマホ。
☆
誰もが、 昨日の結果に怯えていた。
☆
結衣は席へ座ったまま、 答案を見つめていた。
結衣
手が冷たい。
☆
「……無理かも」
小さい声。
☆
龍也が隣で苦笑する。
龍也
「まだ採点前だろ」
「怖いんだって……!」
☆
怖い。
かなり怖い。
☆
共通テストは終わった。
つまり。
“結果”が数字になる。
☆
結衣は深呼吸して、 自己採点を始める。
☆
英語。
国語。
世界史。
☆
点数を書き込むたび、 心臓が重くなる。
☆
そして。
数学。
☆
手が止まる。
☆
「……え」
☆
一問。
マークミス。
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顔が青くなる。
☆
もう一度見る。
でも。
変わらない。
☆
「うそ……」
声が震える。
☆
一将が視線を向ける。
天野一将
「どうした」
☆
結衣は採点表を握る。
「数学……やったかも」
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教室の空気が少し止まる。
☆
結衣は震える声で言った。
「一個ズレてる……」
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最悪だった。
☆
途中までは解けていた。
でも。
マークが一列ズレている。
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頭が真っ白になる。
☆
その後も採点を続ける。
でも。
もう集中できない。
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結果。
☆
東大教育学部ボーダー。
——ぎりぎり。
☆
結衣は採点表を見つめたまま動かなかった。
「……低い」
☆
想像より悪かった。
☆
夏から頑張った。
文化祭後も、 ずっと勉強した。
でも。
本番で崩れた。
☆
涙が滲む。
☆
「私……落ちるかも」
☆
その声が、 かなり弱かった。
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一将は静かに採点表を見る。
☆
少し沈黙。
そのあと。
「まだ切れてない」
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結衣が顔を上げる。
☆
「ぎりぎりでも残ってる」
「でも……!」
☆
結衣は俯く。
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「もっと取るつもりだった」
「A判定だったのに」
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悔しい。
怖い。
情けない。
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全部混ざっていた。
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その時。
兼次郎が静かに言った。
兼次郎
「共通テストで崩れる奴は毎年いる」
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全員少し見る。
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「大事なのは二次まで引きずるか」
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現実的だった。
でも。
受験生として、 正しい言葉だった。
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結衣は唇を噛む。
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(切り替えなきゃ)
分かってる。
でも。
心が追いつかない。
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放課後。
自習室。
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今日は空気が重かった。
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笑っている人が少ない。
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高得点の人。
崩れた人。
想像通りだった人。
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結果が、 少しずつ現実になる。
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結衣は数学のノートを開いていた。
でも。
手が止まる。
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“もし落ちたら”
その言葉が頭から離れない。
一将が隣へ座る。
「止まってる」
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結衣は小さく言う。
「……怖い」
☆
「二次も失敗したらって考える」
「もう自信ない」
☆
今まで積み上げてきたものが、 一気に崩れそうだった。
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一将は少し黙る。
そして。
「崩れてもやるしかない」
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結衣が俯く。
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「受験ってそういうもんだろ」
☆
厳しい。
でも。
逃げ道を作らない言葉だった。
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そのあと。
少しだけ声を柔らかくする。
「お前、ここまでやってきた」
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結衣が止まる。
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「今さら、自分で否定するな」
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静かな声。
でも。
かなり真っ直ぐだった。
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結衣は目を閉じる。
涙が少し落ちる。
☆
悔しい。
怖い。
でも。
☆
終わりたくない。
☆
夜。
帰り道。
☆
冬の風が冷たい。
☆
結衣は空を見上げる。
「……受験って苦しいね」
☆
一将が隣を歩く。
「今さら」
「そうだけど!」
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少し笑う。
でも。
その笑顔は少し弱い。
共通テストは終わった。
でも。
戦いはまだ続く。
☆
そして今。
結衣は初めて、 本当の“スランプ”へ入り始めていた。




