第54話「共通テスト前日」
一月。
共通テスト前日。
朝。
空気が痛いくらい冷たい。
学校へ向かう道。
吐く息は真っ白。
手袋をしていても寒い。
でも。
寒さ以上に、胸の奥が落ち着かなかった。
玲緒菜は駅から学校まで歩きながら、小さく
息を吐く。
玲緒奈
(明日なんだ!)
ついにきた。
ここまで積み重ねてきたものを、試される日。
校門前。
いつもより静かだった。
騒ぐ生徒が少ない。
笑い声もない。
みんな、どこか緊張している。
教室。
空気は異様に静かだった。
シャーペンの音。
参考書をめくる音。
時計の秒針。
それだけ。
結衣は席へ座ったまま、両手を握っていた。
結衣は少し震えていた。
「緊張してヤバいかも!?」
小さい声。
龍也が苦笑する。
龍也「お前、珍しく緊張してるじゃん!」
結衣「だってさ~今日、共通テストじゃんか!」
瑠姫愛も静かに参考書を閉じる。
瑠姫愛「私も少し怖い…」
誰も強がれない。
共通テスト。
全国の受験生が同じ日に戦う。
逃げ場はない。
結衣は机を見る。
単語帳。
付箋だらけの参考書。
何度も解いた問題集。
ここまで本当に長かった。
その時。
一将が隣へ座る。
一将「手、震えてるじゃん!」
結衣が慌てる。
「見ないでよ!」
一将は少しだけ笑った。
ほんの少し。
緊張してるなら普通。
「みんなそれ言うじゃん!」
「みんなそうだから!」
静かな声。
でも。
不思議と落ち着く。
一方。
普通科。
玲緒菜も机へ向かったまま動けなかった。
心臓が速い。
模試とは違う。
これは本番。
E判定。
文化祭。
過去問。
全部が頭をよぎる。
その時。
雷斗が前の席へ座った。
雷斗「顔、白い」
玲緒菜が苦笑する。
「緊張してます!」
雷斗は静かに言う。
「今更焦っても増えない!」
「一将君みたいなこと言うなよ!」
「事実だよな!」
玲緒菜は少し笑った。
その瞬間だけ、少し呼吸が戻る。
昼休み。
屋上。
今日は誰も騒がない。
冬の風。
灰色の蒼空。
結衣が空を見る。
「明日か~!」
誰も返せない。
兼次郎が静かに口を開く。
兼次郎「今更、新しいことやるなよ!」
全員少し見る。
「今日は少しだけ!」
「今日は、早く寝ろよ!」
現実的だった。
でも。
だからこそ安心感がある。
茉優が小さく笑う。
茉優「兼次郎くん、まるで先生みたい!」
「うるさい」
少しだけ、 みんな笑った。
放課後。
教室。
窓の外はもう暗い。
みんな帰る準備をしている。
でも。
どこか足が重い。
“明日”
が来る。
結衣は鞄を抱えながら小さく言った。
「……怖い」
一将が隣へ立つ。
「怖くても行くしかない」
静かな声。
結衣は少し俯いたあと、 小さく頷いた。
「……うん」
玲緒菜も帰り際、 教室を振り返る。
何百時間も勉強した場所。
泣いた日もあった。
笑った日もあった。
ここまで来た。
雷斗が扉の前で待っている。
「帰るぞ」
玲緒菜が少し笑う。
「保護者みたい」
「違う」
でも。
そのやり取りだけで、 少し安心した。
夜。
机。
受験票。
時計。
鉛筆。
秒針の音がやけに大きい。
明日。
全部が始まる。
青春の先にある未来を掴むための、 本当の戦いが。




