第53話 「焦りと祝福」
兼次郎の合格発表から二日後。
学校。
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教室へ入った瞬間。
空気が少し違った。
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以前より、 みんな“受験”を現実として見始めている。
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結衣が席へ座りながら言う。
結衣
「兼次郎くん合格してから空気変わったよね」
龍也が頷く。
龍也
「分かる」
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瑠姫愛も静かに言う。
瑠姫愛
「“本当に受験なんだ”って感じする」
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その言葉が、 妙にリアルだった。
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今まではまだ、 模試や判定の世界だった。
でも。
“合格”が出た。
つまり。
もう、 勝負は始まっている。
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結衣は小さく息を吐く。
「嬉しいんだけど……」
「焦る?」
一将が静かに聞く。
天野一将
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結衣は苦笑した。
「……うん」
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否定できない。
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仲間の合格は嬉しい。
でも。
同時に。
“自分はまだ”
という焦りも来る。
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一将は少し考えてから言った。
「普通」
結衣が見る。
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「焦らない方が珍しい」
静かな声。
☆
でも。
その言葉だけで、 少し気持ちが軽くなる。
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普通科。
玲緒菜も同じ感覚だった。
篠田玲緒菜
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昼休み。
窓際。
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玲緒菜は外を見ながら呟く。
「兼次郎くんすごいなぁ……」
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雷斗が隣へ来る。
武田雷斗
「前からすごい」
「それはそうだけど」
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玲緒菜は少し笑ったあと、 小さく続ける。
「でもちょっと焦る」
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その言葉に、 雷斗は少し黙る。
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「置いてかれる感じする」
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受験生特有の感情。
誰かが先へ進む。
その瞬間、 自分だけ止まってる気がする。
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雷斗は静かに言った。
「まだ始まっただけ」
玲緒菜が見る。
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「一般組はこれから」
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短い。
でも。
妙に説得力があった。
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放課後。
自習室。
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今日はみんな少し集中力が高かった。
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兼次郎の合格。
それが、 確実に刺激になっている。
兼次郎本人はいつも通りだった。
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法学部小論文。
英語。
東大対策。
☆
結衣が苦笑する。
「合格したのにまだ勉強量おかしい」
兼次郎が普通に答える。
兼次郎が普通に答える。
兼次郎
「本命終わってない」
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その言葉で、 空気が少し締まる。
☆
東大。
まだそこがある。
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茉優が小さく笑う。
茉優
「兼次郎くん、少し安心した?」
兼次郎は少し考える。
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「……少しだけ」
珍しく正直だった。
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その空気に、 みんな少し笑う。
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夜。
帰り道。
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結衣が空を見ながら言う。
「なんかさ」
「ん?」
「最近、毎日が早い」
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文化祭が終わってから、 さらに加速している気がする。
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一将が静かに答える。
「止まらないから」
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受験も。
時間も。
青春も。
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全部、 進み続ける。
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結衣は少し笑った。
「なんか寂しいね」
一将は少しだけ空を見る。
そして。
「だから今やる」
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その言葉が、 冬の夜へ静かに落ちた。
合格は希望になる。
でも同時に、 焦りも生む。
☆
それでも。
彼らは前へ進くしかない。
未来へ向かって。




