第52話 「最初の合格」
でも。
その中には、 少しだけ別の感情も混ざっていた。
☆
“置いていかれる感覚”。
☆
受験生特有の空気。
☆
兼次郎はそれを分かっているみたいに、 静かに言った。
「まだ第一志望は終わってない」
☆
東大法学部。
兼次郎の本命。
☆
つまり。
まだ戦いは続く。
☆
その一言で、 少し空気が戻る。
☆
担任が笑う。
「お前らも続けよー」
☆
教室が少しざわつく。
☆
結衣が小声で呟く。
「すご……」
☆
“合格”
その二文字が、 急に現実感を持ち始めた。
☆
昼休み。
屋上。
☆
みんな自然と兼次郎を囲んでいた。
茉優が嬉しそうに笑う。
茉優
「本当におめでとう」
兼次郎が静かに頷く。
「ありがとう」
☆
結衣はまだ興奮していた。
「推薦で法学部ってやばくない!?」
一将が冷静に答える。
天野一将
「兼次郎だから」
「それで済ませるな!」
☆
でも。
みんな少し分かっていた。
兼次郎は、 ずっと努力していた。
☆
だから。
納得感がある。
☆
その時。
玲緒菜が小さく言った。
篠田玲緒菜
「……合格って、本当にあるんだね」
☆
その言葉で、 少し静かになる。
☆
模試。
判定。
過去問。
ずっと“途中”だった。
でも。
今初めて。
“結果”が出た。
☆
受験は、 本当に始まっている。
☆
雷斗が隣で小さく言う。
武田雷斗
「現実感出たな」
玲緒菜が頷く。
「うん……」
☆
嬉しい。
でも。
少し怖い。
☆
合格者が出るということは、 不合格も出るということだから。
☆
放課後。
自習室。
☆
今日はいつもと空気が違った。
☆
張り詰めている。
でも。
どこか熱がある。
☆
“自分も続きたい”
そんな空気。
☆
結衣が参考書を見ながら呟く。
「なんかやる気出てきた」
一将が小さく笑う。
「単純」
「うるさい!」
☆
でも。
目は真剣だった。
☆
玲緒菜も京大数学を開く。
☆
怖い。
まだ不安もある。
でも。
☆
(次は私も)
その気持ちが、 少し強くなっていた。
☆
夜。
帰り道。
☆
冬の空気。
冷たい風。
☆
兼次郎は静かに歩いていた。
その横で、 茉優が小さく笑う。
「嬉しそう」
兼次郎が少し止まる。
☆
「……まあ」
珍しく、 少しだけ表情が柔らかかった。
最初の合格者が出た。
それは。
“受験”が夢じゃなく、 現実だと示す瞬間だった。




