第49話 「揺れる空気」
玲緒菜のE判定から数日後。
学校。
☆
秋の空気は、 以前よりさらに重くなっていた。
☆
模試。
過去問。
判定。
☆
受験生たちは今、 “現実”を見始めている。
☆
朝。
超難関進学コース。
結衣は教室へ入るなり言った。
結衣
「最近空気重くない!?」
龍也が苦笑する。
龍也
「秋だからな」
「季節みたいに言うな!」
☆
でも。
否定はできない。
☆
以前より、 みんな少し静かだった。
☆
瑠姫愛も参考書を閉じながら言う。
瑠姫愛
「最近、判定上下した人多いよね」
☆
その言葉で、 空気が少し止まる。
☆
受験は安定しない。
A判定でも崩れる。
E判定でも受かる人はいる。
でも。
心はそんな簡単じゃない。
☆
結衣が小さく言う。
「玲緒菜、大丈夫かな」
☆
一方。
普通科。
玲緒菜は普段通りを装っていた。
篠田玲緒菜
笑う。
話す。
授業を受ける。
☆
でも。
以前より少し静かだった。
☆
昼休み。
玲緒菜は一人で問題集を開いていた。
☆
解く。
消す。
また解く。
☆
焦っていた。
取り返さなきゃ。
戻さなきゃ。
☆
その時。
椅子が引かれる音。
雷斗だった。
武田雷斗
「また詰め込みか」
玲緒菜が苦笑する。
「やらないと不安」
☆
雷斗は問題集を見る。
「焦って雑になってる」
図星だった。
☆
玲緒菜は少し俯く。
「……怖いんだもん」
小さい声。
☆
「また落ちたらって思う」
☆
雷斗は少し黙る。
そして。
「なら落ち着け」
玲緒菜が顔を上げる。
☆
「焦って崩れたのに、また焦るな」
静かな声。
でも。
かなり真っ直ぐだった。
☆
玲緒菜は少し笑う。
「簡単に言う」
「難しいの知ってる」
☆
少し沈黙。
そのあと。
雷斗が小さく言った。
「でも、お前なら戻せる」
☆
玲緒菜が止まる。
☆
“戻せる”
その言葉が、 思った以上に胸へ響いた。
☆
放課後。
自習室。
☆
今日は珍しく、 少し空気が荒れていた。
☆
ある男子が机へ突っ伏している。
「判定落ちた……」
別の生徒も言う。
「俺も」
☆
重い。
かなり重い。
☆
結衣が小さく呟く。
「受験怖……」
一将は問題を解きながら答える。
天野一将
「秋だから」
「みんなそれ言う!」
☆
でも。
一将の表情も、 少しだけ真剣だった。
☆
兼次郎が静かに口を開く。
兼次郎
「今崩れる奴は多い」
☆
全員少し見る。
☆
「夏の反動が来る」
「結果も見え始める」
「焦りも増える」
☆
茉優が小さく聞く。
茉優
「じゃあ、どうすればいいの?」
☆
兼次郎は静かに答えた。
「崩れたあと、戻れるか」
☆
その一言が、 教室へ静かに落ちた。
夜。
帰り道。
☆
結衣が空を見る。
「受験ってメンタル勝負なんだね」
一将が隣を歩く。
「最後はそう」
☆
「勉強だけじゃない」
その言葉は、 妙に現実的だった。
☆
玲緒菜も夜空を見上げる。
E判定はまだ怖い。
不安も消えない。
でも。
☆
(ここで終わりたくない)
その気持ちだけは、 まだ消えていなかった。
☆
秋は、 受験生を揺らす。
でも。
揺れながらでも、 前へ進くしかない。




