第47話 「過去問」
十月中旬。
放課後。
自習室。
☆
空気は重かった。
☆
文化祭が終わってから、 学校全体の空気が完全に変わった。
誰も浮かれていない。
誰も騒がない。
☆
聞こえるのは、
シャーペンの音
ページをめくる音
小さなため息
それだけ。
☆
結衣は赤本を前に固まっていた。
結衣
「……東大って何?」
龍也が吹き出す。
龍也
「今さら?」
「問題作った人怖すぎる!」
☆
瑠姫愛も苦笑する。
瑠姫愛
「早稲田も普通に難しいよ……」
☆
机の上には、 それぞれの第一志望大学の赤本。
もう、 “受験勉強”じゃない。
“入試対策”。
☆
現実が近い。
☆
一将は静かに問題を解いていた。
天野一将
結衣が覗き込む。
「なんでそんな解けるの……」
「慣れ」
「その域行きたい……」
☆
結衣は再び問題を見る。
英語長文。
意味は分かる。
でも。
設問が鋭い。
☆
(夏よりは出来る)
それは分かる。
でも。
合格レベルかと言われると、 まだ怖い。
☆
その頃。
玲緒菜も京大過去問と戦っていた。
篠田玲緒菜
数学。
☆
三十分。
進まない。
☆
「……無理」
小さく呟く。
☆
雷斗が隣を見る。
武田雷斗
「止まるな」
「でも解けない……」
☆
玲緒菜は少し俯く。
「模試と違う」
「過去問怖い」
☆
本番の問題。
本物の京大。
☆
その重さが、 想像以上だった。
☆
雷斗は問題を見る。
そして。
「途中まで合ってる」
玲緒菜が顔を上げる。
「え」
☆
「式変形ミス」
「そこ直せ」
玲緒菜が見返す。
☆
——本当だ。
あと少しだった。
☆
「……うそ」
「勝手に無理判定するな」
☆
玲緒菜は少し笑った。
でも。
心臓はまだ速い。
☆
放課後後半。
空気はさらに静か。
☆
兼次郎が法学部小論文を書いている。
兼次郎
茉優は教育学部の記述。
茉優
龍也と瑠姫愛は過去問分析。
☆
全員、 完全に受験生だった。
☆
結衣が小さく呟く。
「なんかさ」
「ん?」
「文化祭、遠い昔みたい」
☆
その言葉に、 少し静けさが落ちる。
☆
まだ一週間くらいしか経ってない。
でも。
気持ちはもう、 全然違う場所にいた。
☆
帰り道。
夜。
☆
結衣は少し疲れた顔だった。
「今日ボコボコにされた……」
一将が隣を歩く。
「初見ならそんなもん」
「一将くん基準やめて?」
☆
少し沈黙。
そのあと。
結衣が小さく言う。
「……怖いね」
一将が見る。
☆
「本当に受験近いんだって感じする」
その声は、 少し弱かった。
一将は少し考える。
そして。
「怖くて普通」
結衣が止まる。
☆
「簡単なら、みんな受かる」
静かな声。
でも。
すごく現実的だった。
☆
結衣は苦笑する。
「厳しい」
「でも逃げるな」
☆
その言葉に、 結衣は少し笑った。
「……うん」
☆
受験は、 確実に近づいている。
過去問は、 現実を突きつけてくる。
☆
でも。
怖いからこそ、 彼らは前へ進く。




