第44話 「文化祭の夜」
文化祭初日終了。
夕方。
校内はまだ熱気が残っていた。
☆
片付けをする生徒。
笑い声。
写真撮影。
疲れたーという声。
☆
でも。
誰もすぐ帰ろうとしない。
☆
高校最後の文化祭。
この時間が、 特別だと分かっているから。
☆
結衣は廊下に座り込んでいた。
結衣
「つかれたぁぁ……」
完全に電池切れ。
☆
そこへ。
一将がスポーツドリンクを差し出す。
天野一将
「はい」
結衣が受け取る。
「神……」
☆
一将は隣へ座る。
少し沈黙。
☆
結衣が小さく笑う。
「実行委員、大変だけど楽しい」
「顔に出てる」
「そんな分かりやすい?」
「ずっと騒いでる」
「否定できない!」
☆
でも。
そのあと。
結衣は少し静かになった。
☆
「……終わるの嫌だな」
一将が見る。
☆
結衣は廊下の先を見る。
夕焼け。
文化祭の装飾。
笑い声。
☆
「ずっと続けばいいのにって思う」
その声は、 少し寂しそうだった。
☆
一将は少し黙る。
そして。
「終わるから覚えてる」
結衣が止まる。
☆
「ずっとあると、普通になる」
静かな声。
☆
結衣は少し笑った。
「……今日なんか哲学っぽい」
「気のせい」
☆
でも。
その言葉は、 妙に胸へ残った。
☆
その頃。
中庭。
玲緒菜たちはクラスの片付け中だった。
篠田玲緒菜
「よいしょっ」
段ボールを運ぶ。
☆
雷斗も無言で作業。
武田雷斗
周囲の男子が笑う。
「雷斗、文化祭なのに労働力高すぎ」
「怖い顔で釘打つなって」
☆
玲緒菜が吹き出す。
「確かにちょっと怖かった」
雷斗が即答。
「うるさい」
☆
でも。
どこか楽しそうだった。
☆
片付け後。
校舎裏。
少し静かな場所。
☆
玲緒菜が空を見る。
夕方から夜へ変わる空。
☆
「……綺麗」
その横に、 雷斗が立つ。
☆
しばらく無言。
でも。
嫌じゃない沈黙だった。
☆
玲緒菜が小さく言う。
「今日、楽しかったね」
「ん」
「なんか普通の高校生っぽかった」
☆
雷斗は少し空を見る。
そして。
「普通だろ」
玲緒菜が笑う。
「雷斗くん全然普通じゃない」
「どっちだよ」
☆
笑い合う。
短い時間。
でも。
すごく自然だった。
☆
その時。
遠くから校内放送。
『完全下校時刻です』
☆
玲緒菜が少し寂しそうに笑う。
「終わっちゃう」
雷斗は静かに言う。
「明日もある」
「……そうだった」
でも。
“最後の文化祭”が、 終わりへ近づいている感覚は消えない。
☆
夜。
帰り道。
結衣は実行委員資料を抱えながら歩いていた。
「明日も朝早い……」
一将が隣を歩く。
☆
少し沈黙。
そのあと。
一将が小さく言った。
「今日、楽しそうだった」
結衣が止まる。
☆
「……え」
「実行委員やってる時」
☆
結衣は少し照れながら笑う。
「だって楽しいもん」
「知ってる」
☆
その言い方が、 少し優しかった。
☆
秋の夜風。
文化祭の余韻。
少しだけ疲れた身体。
☆
でも。
心は不思議なくらい満たされていた。
高校生活は、 終わりへ向かっている。
だからこそ。
今この時間が、 どうしようもなく愛しかった。




