第39話 「崩れそうな夜」
九月下旬。
夜。
雨。
玲緒菜は自室の机に向かっていた。
篠田玲緒菜
参考書。
ノート。
赤本。
積み上がる問題集。
時計を見る。
23時42分。
「……終わらない」
小さく呟く。
京大。
全国模試。
全国順位。
A判定。
周囲から見れば、 十分すごい。
でも。
(もっと上がいる)
(落ちたらどうしよう)
(今のままで本当に足りる?)
不安が止まらない。
問題を解く。
ミス。
もう一度。
またミス。
玲緒菜はシャーペンを置いた。
「……できない」
視界が少し滲む。
その時。
スマホが震えた。
——雷斗
玲緒菜は少し驚く。
通話ボタンを押した。
「……もしもし」
電話越し。
静かな声。
武田雷斗
『起きてたか』
「うん」
少し沈黙。
雷斗が言う。
『声変』
玲緒菜は苦笑する。
「そんな分かりやすい?」
『分かる』
玲緒菜は少し黙った。
そして。
「……できない」
小さく漏れる。
「問題解けない」
「焦る」
「頑張ってるのに不安になる」
言葉が止まらない。
『……』
雷斗は黙って聞いていた。
玲緒菜は続ける。
「みんなすごいし」
「兼次郎くんも一将くんも雷斗くんも」
「置いていかれそうで怖い」
雨の音だけが聞こえる。
そのあと。
雷斗が静かに言った。
『お前、前より出来てる』
玲緒菜が目を閉じる。
『夏前なら解けなかった問題、今解いてる』
『逃げなくなった』
『それだけで違う』
静かな声。
でも。
まっすぐだった。
玲緒菜は小さく呟く。
「……でも怖い」
『当たり前』
即答。
『受験なめんな』
玲緒菜が少し笑う。
「厳しい」
『でも逃げるな』
また沈黙。
そのあと。
雷斗が少しだけ声を柔らかくした。
『お前、頑張ってる』
玲緒菜の呼吸が止まる。
『ちゃんと見てる』
その言葉で。
張っていた糸が、 少しだけ緩んだ。
玲緒菜は笑いながら目を押さえる。
「……ずるい」
『何が』
「そういう時だけ優しい」
『知らん』
でも。
玲緒菜は少し救われていた。
電話後。
玲緒菜は再び机へ向かう。
さっきまで重かった問題集。
でも。
今は少しだけ違う。
完璧じゃなくていい。
怖くてもいい。
それでも、 前へ進めばいい。
同じ頃。
結衣も部屋で唸っていた。
結衣
「世界史覚えられないぃ……」
机へ突っ伏す。
その時。
スマホ通知。
一将
『寝るな』
結衣が即返信。
『まだ寝てない!!』
数秒後。
『机に突っ伏してるだろ』
結衣が固まる。
『なんで分かるの!?』
『いつもの』
「怖っ!!」
思わず声が出る。
さらに通知。
『頑張ってるの知ってる』
結衣が止まる。
『だから最後までやれ』
短い。
でも。
一将らしい言葉。
結衣は少し笑った。
「……ほんと反則」
顔が熱い。
でも。
やる気は戻っていた。
受験の秋。
不安は消えない。
焦りもある。
崩れそうな夜もある。
でも。
彼らは一人じゃなかった。
支えてくれる誰かがいる。
だから。
また前を向ける。




