第38話 「焦り」
全国模試結果返却から数日後。
学校。
以前より、 教室の空気が静かだった。
理由は簡単。
全国順位という“現実”を、 全員が見てしまったから。
上には上がいる。
その事実が、 想像以上に重い。
朝。
超難関進学コース。
結衣は机へ突っ伏していた。
結衣
「全国21位なのに不安消えない……」
龍也が苦笑する。
龍也
「十分すごいだろ」
「でも上に20人いるんだよ!?」
瑠姫愛も静かだった。
瑠姫愛
「……なんか、急に現実味出たよね」
その言葉に、 何人かが頷く。
夏までは、 “目指してる”感覚だった。
でも今は違う。
“競争している”感覚。
一方。
玲緒菜も少し様子がおかしかった。
篠田玲緒菜
京大A判定。
全国89位。
本来なら十分すごい。
でも。
(もっと上がいる)
その感覚が、 頭から離れない。
昼休み。
玲緒菜は一人で問題集を解いていた。
雷斗が来る。
武田雷斗
「昼飯」
「あとで食べる」
即答。
雷斗は少し黙る。
そして。
「焦ってるな」
玲緒菜の手が止まる。
図星だった。
玲緒菜は小さく言う。
「……だってさ」
「全国89位でも安心できないんだよ?」
「京大って怖すぎる」
雷斗は静かに聞いている。
玲緒菜は続けた。
「もっと頑張らなきゃって思うのに」
「やればやるほど不安になる」
少し沈黙。
そのあと。
雷斗が問題集を閉じた。
「今のお前、空回ってる」
玲緒菜が顔を上げる。
「焦っても急に伸びない」
「崩れるぞ」
静かな声。
でも。
重かった。
玲緒菜は少し俯く。
「……分かってる」
「でも怖いの」
その声は、 少し震えていた。
雷斗はしばらく黙る。
そして。
「怖いならやるしかない」
玲緒菜が苦笑する。
「結局そこなんだ」
「逃げる方が後悔する」
その言葉に、 玲緒菜は少し笑った。
雷斗はいつもシンプルだ。
でも。
だからこそ、 迷った時に刺さる。
放課後。
自習室。
空気はかなり重い
誰も遊んでいない。
誰も騒がない。
ただ、 ひたすら勉強。
結衣が小さく呟く。
「なんか最近みんなピリピリしてる」
一将が問題を解きながら答える。
天野一将
「受験近いから」
「分かってるけどぉ……」
結衣は少し俯く。
「……もし落ちたらどうしようって考える」
珍しく弱音だった。
一将の手が止まる。
そして。
「落ちる前提で考えるな」
静かな声。
「まだ何も終わってない」
「今やるしかない」
結衣は少し笑った。
「……ほんとブレないよね」
「結衣が揺れすぎ」
「否定できない……」
その時。
兼次郎が静かに口を開く。
兼次郎
「焦る時期だ」
全員が少し見る。
「秋は崩れる奴が多い」
「結果が見え始めるからな」
空気が少し重くなる。
茉優が小さく聞く。
茉優
「じゃあ、どうしたらいいの?」
兼次郎は短く答えた。
「いつも通りやる」
シンプル。
でも。
それが一番難しい。
帰り道。
夕方。
風が少し冷たい。
玲緒菜は空を見ながら言う。
「……秋って怖いね」
雷斗が隣を歩く。
「まだ九月」
「それがもう怖い」
少し沈黙。
そのあと。
雷斗が静かに言う。
「不安なのは、本気だからだろ」
玲緒菜が止まる。
その言葉に、 少しだけ救われた気がした。
受験は怖い。
未来も怖い。
でも。
それだけ本気になれている証拠だった。




